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世界に先駆け研究開発、NICTが挑む「光・電波融合デバイス技術」の世界

世界は多くの物質・素材でできている。高度な情報化社会を支えるさまざまなデバイス・システムも多くの素材で構成されている。1970年代頃、半導体材料は世界を一変させた。電気の流れを制御可能な半導体によりトランジスタ集積回路が創出され、電子を用いた高度な信号処理やコンピューティングが可能となったのだ。

20年代になり、パラダイム・シフトが起きようとしている。集積デバイスの情報媒体が電子から光や電波、量子などのさまざまな「波」へ変遷する。そして、その波を積極的に活用する「光・電波融合デバイス」が必要になる。

NICTは、世界に先駆け10年ほど前から光・電波融合デバイス技術の研究開発を進めている。具体的には、一つの集積回路内で光と電波を調和的に利用する技術、電波信号を光に載せ替えたり、光信号を電波で処理するデバイス技術の研究を実施している。光や高い周波数の電波の持つ高速性や広帯域性などが活用でき、毎秒テラ(テラは1兆)ビット級の大容量無線・有線通信や高速な信号処理を可能にすると考えられる。

光・電波融合デバイスを具現化するためには、素材の持つ個々の力を引き出すことが重要となる。例えば半導体電子デバイスで広く利用されているシリコン材料は、電気特性や集積化などでは優れているが、発光デバイスには不向きである。

NICTは、光や電波をよく通す素材、増幅できる素材、光と電波を相互に変換できる素材など多くの素材の個性を組み合わせ集積する「異種材料集積:ヘテロジニアス集積」デバイス技術を開発した。写真のプロトタイプデバイスは、わずか50平方ミリメートルにシリコンとⅢ―V族化合物の異種半導体を組み合わせたヘテロジニアス光集積回路の一部である。複数の波長の光が半導体内を伝搬し、増幅され、高速な光信号が生成・処理できる。

私たちは、明るい未来社会の構築そして暗い社会課題の解決、これらを達成するためのサイバーフィジカルシステムや第5世代通信規格の次世代に当たるBeyond5Gを根底で支えるデバイス基盤技術の実現を目指している。

ネットワーク研究所・フォトニックICT研究センター・副センター長/先端ICTデバイスラボ ラボ長 山本直克
 東京電機大学工学部助教を経て、2001年よりNICTに入所。半導体ナノ材料と光・電波融合デバイス技術、アクセス系伝送メディア調和型ネットワーク技術の研究に従事。博士(工学)。

日刊工業新聞2022年6月21日

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