鋳造業界に新風を吹き込めるかー。譜面を図面に持ち替えた4代目社長の挑戦(後編)
錦正工業、独自の人材育成が企業や業界外の人を巻き込む
「受け身」から「主体」への意識改革
昨年の暮れ、錦正工業恒例の全社員による忘年会が開催された。だが、今回はいつもと少し様子が違った。店内にはプロジェクターとスクリーンが用意され忘年会という雰囲気ではない。そして、始まったのが二人の若手社員によるプロジェクト発表会。
発表者は、1カ月前に突然プロジェクトリーダーに任命された、月井美帆(入社8年目)と石塚達也(入社4年目)。月井はオリジナルブランド「FENA」(フィーナ)プロジェクト」、石塚は「自動化装置開発プロジェクト」について説明した。
二つのプロジェクトは、数年前から永森が準備を進めていたが、道筋が見えてきたこともあり、今回、若手二人にリーダーを任せることを決めた。
永森はこれまでもいろいななプロジェクトを手掛けていたが、社員からは「また社長がなんかやってるな・・」という第三者的な視線をひしひしと感じていた。それを危惧した永森は、社員がプロジェクトの中心になることで、“自分たちの仕事”だという意識を持ってもらいたかった。
「仕事に対しての主体性と責任感が生まれて欲しい。結果、上手くいかないことがあったとしても、それが彼ら彼女らの成長につながってくれればいい。成功すれば、それがモチベーションアップにつながる」という。
任命された二人は、当初戸惑いもあったが、限られた時間の中で情報収集し、徹夜で資料を作成して発表会に臨んだ。「突然リーダーに任命されてビックリした」と話す月井は、普段は事務職で、鋳造技術についてはさほど詳しいわけではない。だが、現場の技術者に分からないことを質問するなど、製造現場の社員との交流もこれまで以上に増えた。
石塚は物事を論理的に捉えて答えを見出していくという仕事の姿勢が評価されての抜擢。担当する自動化装置開発プロジェクトは、複雑なシステム要素が多いが、みんなに分かりやすく伝わるよう一生懸命に話した。大役を果たし緊張感から解放された二人には、笑顔と同時に自信に満ちた表情が生まれていた。
鋳造業界の未来を創る
「製造業の中でも、特に鋳造業界は社会的認知度、若手の採用、スタッフのモチベーションアップなど苦労している」と永森。自社だけでなく業界全体の将来に危機感を感じ、先月、フェイスブックで一つのグループページを立ち上げた。その名も『鋳物を愛する人たちの会』
このグループは、鋳造業界関係者に関わらず誰でも参加ができる。その意図を永森は「モノづくりに携わっていない人たちにも、鋳物が日頃の生活を支えている身近な存在であることを知って欲しい。そして鋳造関係者が市場ニーズを知る場、ユーザーとの交流の場として活用して欲しい」という。その想いが伝わり、グループ参加者は一日で200人を超えた。
永森流の人材育成方法は独特な部分もあるが、単なる思いつきではない。すべては、将来の事業展開を見据えた綿密な計画の上に成り立っている。そして、何よりも社員の成長を願う永森の親心が伺える。これからの鋳造業界を担う経営者として期待は大きい。
(敬称略)
「鋳物を愛する人たちの会」フェイスブックページ
https://www.facebook.com/groups/I.love.imono/
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