ロボットと人は現場でどう関わるか?

生活支援ロボットの普及に向けた取り組みとその意義 #02

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 本特集では、神奈川県が実施する「新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」の成果を周知し、今年度の取組内容についてお伝えすることを目的とし、全4回にわたり連載する。

 この事業は、令和3年度から開始し、令和4年度も継続して実施している事業である。事業名からもわかる通り、この事業では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に資するロボットの実証に留まらず、実装を目的として実施している。令和3年度には、ロボット実装のモデルケースを創出することに成功し、モデルケースを創出する際に得たロボット実装の知見を手順書としてまとめて公開している。令和4年度も継続して事業を実施し、ロボットの実装と普及に継続的に取り組んでいる。

前回コラムでは、DX(Digital Transformation)と共に、私たちの生活を支援するロボット(いわゆるサービスロボット)の必要性が高まる中、様々な分野においてトライアルが行われていることを紹介した。ロボットが現場で働いている光景は人々の注目を集めやすく、ニュース等で取り上げられることも多い。しかし、実際の現場でロボットが本当に人の役に立つためには、ただロボットを現場に持ってきただけではうまくいかない。“人とロボット”、もしくは”人と人”が、どのように現場で関わりあうことで、ロボットの力を最大限に引き出し、その便益を享受することができるのだろうか。

メーカーとユーザーの間にはギャップがある

「ロボットを提供するメーカーさんと、それを実際に使う我々との間には、課題感やニーズの捉え方にギャップがあることが少なくない。」そう話すのは、全国でもトップクラスの高度急性期病院として知られる、医療法人徳洲会湘南鎌倉総合病院で事務長を務める、芦原教之氏だ。658の稼働病床を有し、コロナ患者受け入れにも対応するこの病院では、かねてよりロボットをはじめとする様々なデジタル技術のトライアルに取り組み、職員の働き方改革とDXを推進してきた。

「現場にはスピード感を持って、新しいテクノロジーに慣れてもらいたい。看護師が本来やらなければいけない仕事や、どうしても人が対応しなければいけないような仕事に職員が集中できるような仕組み・仕掛けを積極的に導入していきたい。」芦原氏がこう語る通り、ロボットをはじめとするデジタル技術を、臨床の現場にとどまらず、来院患者への案内業務や病院内の物流等、医療現場を支える非臨床の現場にも浸透させていくことを目指し、業務効率化を図ろうと取り組んでいるのがこの病院の特徴だ。

湘南鎌倉総合病院 事務長 芦原教之氏

そうした思いと実績が認められ、湘南鎌倉総合病院は神奈川県の「令和3年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」における実証施設に採択された。冒頭の発言は実証の企画段階での発言で、これまでロボットをはじめとする様々なデジタル技術のトライアルを経て感じているユーザーとしての率直な意見であった。このギャップをいかにして埋めていくかが、今回の実証のみならず、ロボット導入のトライアルを成功に導く重要なカギとなる。

生活支援ロボット利活用最前線

実証ではまず病院の各セクションの職員にアンケートを取り、ロボットで解決したい課題の収集から着手した。結果として、案内、搬送、移動支援、清掃等のテーマに関するニーズを多く収集し、これらに応えるロボットを募集・選定し、プロジェクトとしてテーマごとに実証を進めることとした。

事業で取り組んだ5つのステップ
湘南鎌倉総合病院で実証を行ったロボット

ここで重要なのは、先述のロボットを提供する事業者と、ロボットを利用する病院との間で発生するニーズや課題感に対する捉え方のギャップを極力なくすことだ。一般的に、ロボット事業者とユーザーとでロボット導入について協議する場において、ロボット事業者はロボットの機能や性能の説明に注力しがちだ。しかしユーザーは、ロボットについての知識を必ずしも十分に有しているわけではない場合が多く、むしろ初めてロボットに触れるケースも少なくない。そのようなユーザーにとってみれば、ロボット事業者の説明内容が自分たちの業務にどう関係し、どのようにロボットを運用していくのかイメージできない場合が多い。

一方、ロボット事業者としても、ロボットが利用される現場の業務内容や環境条件について、業界の知識が十分でない場合、ユーザーから聞き出さなければならない情報を聞き出しきれずに、ロボットの運用手順と要件を定めるのに苦労したり、それらが不十分なままロボットを現場に持ち込んでしまうケースがたびたび発生する。

今回の実証では課題解決事業者(NTTデータ経営研究所)が両者に伴走し、ロボット事業者と病院との橋渡しを行うことで、ロボットにどのような役割を担わせ、どういった課題を解決していくのか、またその際の運用手順や制約条件等の具体化を支援し、ギャップを小さくしていった。その手法をまとめた今回の手順書を参照することで、はじめてロボット導入を検討するような施設においても、先述のようなギャップは小さくすることができる。

手順書に記載されている内容を一部紹介する。実証実施にあたり、病院側で体制を構築する際の工夫点だ。まず、ロボットを導入する現場の部署に専任担当者を設置してもらい、ロボット事業者との意見交換や調整がスムーズに実施できるようにした。次に、現場の専任担当者を技術的にサポートするため、ロボットをはじめとするデジタル技術と病院内の設備・システムに知見のある病院の担当者を体制に組み込んだ。さらに、これらの体制を統括し管理するマネジメント担当を置き、病院内の意思決定権をもつ責任者にプロジェクトリーダーとして参画いただいた。

プロジェクトの体制

こうした工夫を行ったことで、実際の業務の中で現場がロボットの運用を主導し、数カ月に渡る実証の中で、その効果を検証することができた。その他の工夫点や、実証テーマごとの成果については、ロボット導入の手順書としてまとめ、神奈川県のHPにて公開されているのでご参照いただきたい。

■神奈川県「令和4年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」
3 ロボット導入の手順書について
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/jisso.html
実証の様子

あらゆる現場でロボットが活躍するために

今回作成した手順書では、ロボットが現場で真に人の役に立つためにはどのような手順で導入を進めればよいか、今回の実証で得られたノウハウについてまとめている。その構成としては、先述した体制構築のような、今回実施した複数の実証テーマ(本格検証5件)に共通するプロセスについて記載した章と、実証のテーマごとに工夫した点や得られた成果を記載したケーススタディの章(5テーマ分)から成る。

ロボットの導入を検討しているユーザーにとっては、共通プロセスを参照することで、ロボットの導入に向けて何から着手し、ロボット事業者とはどのタイミングでどのような内容をすり合わせる必要があるのか理解し、実行することができる。また、関心がある実証テーマ別の事例について、ケーススタディを参照することで、運用のイメージを持つことができる。

一方、ロボット事業者にとっては、この手順書内容に沿ってユーザーへのロボット導入提案をすることで、情報の聞き出し漏れや手戻り等を防ぎ、効率的な実証の企画・実施を推進し、ロボットの導入を促進することができる。今後この手順書が広く活用されることで、様々な分野でのロボットの普及が促進されることを期待したい。

ロボット導入のプロセス概要

湘南鎌倉総合病院での実証で印象的だったのは、現場の専任担当者をはじめとする職員の方たちが、自分たちの使いやすいロボット運用手順や活用方法を試行錯誤し、ロボット事業者にフィードバックを行い、改善を繰り返していたことであった。自由闊達な意見交換が行われていた現場では、ロボットの愛称が印字されたロボット用の職員証がロボットに取り付けられていた。現場のユーザーとロボットとの間において、一緒に仕事をする同僚としての関係性が作り出されることが、ロボット導入成功に向けた大きな一歩である。(NTTデータ経営研究所ビジネスストラテジーコンサルティングユニットシニアコンサルタント・吉原 理人)

愛称が印字された専用職員証を首から下げたロボット

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