CO2発生せず水素製造、NIMSが新技術で挑む
天然ガスやシェールガス、バイオガスなど、自然界にはさまざまなかたちの炭化水素資源、特にメタンガスが豊富に存在する。このメタンガスを触媒の存在下で加熱もしくはプラズマ照射によって固体炭素と水素(H2)に分解し、水素ガスを得る「メタン直接分解」が現在、大きな注目を浴びている。スチームリフォーミング(SRM)と呼ばれる伝統的な水蒸気改質法に対し、メタン直接分解による水素製造は二酸化炭素(CO2)の発生を伴わないため、大気中のCO2濃度抑制の点で大きな優位性がある。
一方で、メタン直接分解には課題もある。その一つは、メタン活性化と固体炭素析出が同じ触媒の表面の同じ場所(反応場)で進行するため、H2発生と共に触媒が固体炭素によって被覆され失活し、著しい場合には反応ガス流路が閉じてしまう「コーキング」の抑止が原理的に難しくなる。
物質・材料研究機構(NIMS)はこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「水素利用等先導研究開発事業」の「炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査」において、従来のメタン直接分解とは原理的に異なる新技術「反応場分離型水素製造システム」の開発に着手した。
同システムは、メタン(CH4)をまずCO2と反応させて一酸化炭素(CO)とH2の混合気体に変える乾式リフォーミング(DRM)を施した上で、そこからH2を取り出すとともにCOをCO2と固体炭素に変換(CO不均化)する閉鎖循環型の化学反応を利用する(図)。このシステムでは、CH4を反応性の高いCOとH2に活性化するDRM反応場と、COから固体炭素を析出させるCO不均化反応場とが空間的に分離している。その結果、DRM触媒表面はメンテナンスフリーで常に清浄な状態に保たれる。さらに、COから固体炭素を捕集するCO不均化触媒に安価で毒性の少ない鉄系材料などを用いれば、その触媒ごと回収することも可能となる。これによりシステム全体のランニングコストを劇的に低下できる。
メタンガスから、CO2を一切外界へ放出することなく、大量かつ安価にH2を製造できる触媒材料とそれを活用した製造技術を開発できれば、カーボンニュートラルを実現するための水素社会の実現に大きく貢献できると期待される。
◇物質・材料研究機構(NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点 独立研究員 阿部英樹
1993年東京大学大学院修士課程修了、95年同大学院博士課程退学、同年金属材料技術研究所(現NIMS)に入所。03年博士(学術)(埼玉大学)。15年より埼玉大学連携教授併任。