メタバースと現実つなぐ「ARグラス」視界良好、民生用は広がるか
コロナ禍で遠隔作業支援や作業記録の用途が拡張現実(AR)グラスの市場を広げている。現場作業中に遠隔で視界を共有し、グラスに指示を出す。ARグラスはウエアラブルコンピューティングの代表格だ。業務用から市場が立ち上がり、民生用が続くかどうか注視されている。(小寺貴之)
「普通の眼鏡と遜色ないARグラスの製品化が控えている。メタバース(仮想空間)とリアルをいかにつなぐかが重要」と神戸大学の塚本昌彦教授は指摘する。米国と中国を中心に業務用と民生用の両方でARグラスが開発されている。足元では遠隔作業支援の用途で販売を伸ばしている。現場に複数の作業員が入れない場面でも、ARグラスのカメラを通して遠隔で状況を把握し指示を出せる。米ビュージックス・コーポレーションの柏元祐チャネルセールスマネージャーは「欧米市場は販売数が倍々ペースで伸びている。現場で使えると証明された」と胸を張る。コロナ禍で現場を回すために必要不可欠と認められた。
ただ日本市場は反応が鈍い。100台規模の導入例はあるものの、広がりは限定的だ。柏マネージャーは「海外では業務用スマートフォンと同じく必需品の位置付けだ。使いこなせなければ使い方に問題があるとされる」と説明する。現場の映像をネットにつなげるセキュリティー面などで懸念されるという。
遠隔支援以外にも物流倉庫でのピッキング指示への導入が始まっている。東芝システムテクノロジー(東京都府中市)はカラーコード式画像認識で品目を識別し、ARグラスに指示を出すシステムを提案。同社の仲谷幸一参事は「作業者の視線はグラスの表示と現実を行き来する。片眼式が有効」と説明する。
インターネットにつながれば使える遠隔支援に比べ、自動識別や作業指示はアプリケーション(応用ソフト)を作り込む必要がある。遠隔支援で端末が広がり、その上で動くアプリが複数の機種に対応して使い回しやすくなれば、業務用ソフトのように市場が大きくなると期待される。
塚本教授は「うまく進めば2022年内に民生品が立ち上がる。すると端末や価格帯の選択肢が広がる」と説明する。販売店に1台数十万円の業務用と数万円の民生用が並ぶことになる。遠隔支援の用途は確実視されている。その先のARアプリの開拓が急がれる。