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無線設備の点検に使う測定器、NICTが担う較正業務の世界

電波を発射するためには無線局免許手続きが必要であり、国によって実施される無線設備の検査や点検には長い期間と煩雑な手続きが必要である。そのため、検査や点検を省略できる登録事業者制度、小規模無線局設備のための基準認証制度などにより、無線局手続きの簡略化が図られている。

検査や点検のために用いる測定器は、結果の公平・公正性を維持するために、原則、指定較正機関で、さらに指定較正機関は必ず情報通信研究機構(NICT)で較正を受けた機器を用いる必要があるため、NICTは電波法の最上位較正機関といえる。

NICT(当時の郵政省電波研究所)では、1952年から較正業務を実施した。当初は郵政省電波監理局(現総務省総合通信局)が検査や点検の際に用いる測定器の較正業務が主であったが、その後、登録事業者制度や基準認証制度などに対応するために、指定較正機関が用いる測定器の較正等を行うようになった。

電波法におけるトレーサビリティー体系図(NICT提供)

さらにNICTでは、周波数標準器の校正において、03年に経済産業省から指定を受け国家標準と直接比較した校正結果を供給している。また、電力計などの校正において、06年に製品評価技術基盤機構からISO/IEC17025(試験所および校正機関の能力に関する一般要求事項)認定を取得したことにより、国際的に通用する校正証明書を発行できるようになった。

現在、NICTの較正業務は、指定較正機関の測定器や指定較正機関で対応できない高い周波数の測定器等の較正を主に行っており、近年は300ギガヘルツ(ギガは10億)帯を想定した次世代移動無線システム(B5G/6G)のように、高い周波数の利用需要が増えてきている。NICTではすでに、電力計較正で周波数330ギガヘルツまで対応し、ユーザーからの要望に応えている。

今後予想される電波利用の増大により、電波を効率的に利用する必要性が生じることやグローバル化に伴い、無線設備を検査や点検した結果が国際的に通用することが求められる。そのため、測定器を高精度に較正しなければならない。NICTは、これからも電波法における最上位の較正機関として責務を果たしていく。

なお、文中の較正と校正は同義、電波法では較正を計量法では校正を用いている。

◇電磁波研究所・電磁波標準研究センター 電磁環境研究室 主任研究員 杉山功 86年郵政省電波研究所(現NICT)入所。90年より較正・型式検定業務および試験法の研究開発、21年よりISO/IEC17025マネジメントシステムにおける品質管理業務に従事する。
日刊工業新聞2022年1月25日

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