多様なスタートアップが生まれる中南米、日本のVCや企業から見た可能性は?

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「スタートアップ」というと皆さんはどのようなイメージを持つだろうか。

スタートアップの多くが先進的なデジタル技術を活用することから、シリコンバレーのような最先端技術の中心地のイメージを持つ人も多いと思う。他方、中南米では、治安やインフラの不足、格差問題などの多くの基礎的な課題があり、スタートアップとは縁遠く感じるのではないだろうか。

実は、中南米では、既にスタートアップ企業が多く生まれ、活躍し、世界に羽ばたいている。今回、中南米で活躍する日本人ベンチャー・キャピタル(以下、VC)とのインタビュー等を通じて、その理由や具体例を紹介するとともに、経済産業省スタートアップ支援についても紹介していく。中南米には、日本の技術やサービス、ノウハウをいかす商機が広がっている。

資料提供-ブラジル・ベンチャー・キャピタル

中南米で活躍するスタートアップと日本人VC

 

ブラジルなど新興国では、モバイル送金等のデジタル技術が先進国の発展段階を飛び越して普及する「リープフロッグ(カエル跳び)現象」が生じている。インフラ等未整備な新興国の社会課題というニーズを、起業家が最新技術を用いて課題解決して一気に普及することがあるからだ。

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの中山充代表取締役は現地事情について「企業価値が10億ドル以上のユニコーンの数は20社以上(冒頭画像参照)。日本よりも多い。ブラジルではスタートアップが低中所得層向けにデジタル技術が実装されたサービスを提供して急成長を遂げている。特に、金融、EC、シェアエコノミーが目立ち、その代表例がヌーバンク。スマートフォンを用いた口座開設やカード発行が利用者の支持を集め、2021年12月にNY証券取引所に上場した。ブラジルのVC投資は近年急速に拡大している」と述べた。

日本では実証実験を行うことも難しい技術が素早く社会実装まで至るケースも多く、日本のスタートアップが力を発揮する商機も多い。中山氏は「中南米など海外進出を検討する場合には、常にアンテナを張る姿勢が重要。JETROやJICAのサイトでの情報収集で基本的なことはカバーできる。個別相談プログラムも活用するべき」と語る。

中南米スタートアップへの期待

すでに中南米に商機を見出した日本企業もある。

データセクションは2019年にチリのリテールテックベンチャーのジャックテクノロジーを買収した。平本義人最高執行責任者は「日本以外のマーケットでいち早く成長するのに最適だった」と語る。

データセクションは2000年に設立。SNS上の情報分析ツ―ルを提供し、2014年に東証マザーズに上場。同時期にディープラーニングによる動画や画像の解析を始めた。自動運転の制御システムの研究開発や交通量調査の自動化などサービスを拡大したが「投資家が期待する成長曲線を描けなかった」(平本氏)。2018年に選択と集中を決断し、リテールマーケティング(店舗内カメラの画像解析ソリューション「FollowUP」)、SNS分析、顧客のデータ解析の3領域に事業を絞る。リテールはグローバル展開の方針を打ち出した。

店舗内カメラの画像解析ソリューション「FollowUP」

平本氏は「ジャック社に出会えなかったら、海外展開に要する時間が相当かかったのではないか」と語る。

 

実際、M&Aによりジャック社が保有していた優秀な人材と中南米、欧州など20カ国での販売チャネルを手に入れた。「海外の小売業は来店客数や購買率等のデータを重視する傾向にある。将来消費が拡大する新興国でのFollowUPの拡販余地は大きい」と今後に期待を込める。

M&Aのハードルは低くなかった。上場後でキャッシュは潤沢でなく、資金調達手法も限られた。株式交換でのM&Aを模索した時に偶然知ったのが経済産業省の支援策だ。産業競争力強化法に基づく事業再編計画(自社株式を対価としたM&A)の認定を受けたことで、手続きの簡素化やリスクヘッジができた。「チリの企業を株式交換でM&Aという前例がない試みだったが、まさに渡りに船で、感謝している」と振り返る。

今後、起業家や投資家の南米への関心が増すのは間違いない。平本氏は「スペイン語が話せればブラジル以外言葉の壁がないのは魅力的。水平展開しやすい」と指摘する一方、「日本企業の進出先として中南米進出を候補に上げないのが実情であり、残念」と分析。「中南米を選択肢のひとつとして議論する段階にきているのでは」と語る。

中南米で展開するフェーズに応じた政府支援

経済産業省は中南米に進出する日本企業をどう支援しているのか。村山勝彦中南米室長に聞いた。

世界ではスタートアップ・エコシステム競争が激化しており、今後、国際競争力向上のために世界で勝てる日本のスタートアップを創出する事が必要である。中南米は距離的に遠く感じるかもしれないが、一定の経済発展や社会的課題を抱えており、日本のスタートアップが活躍するポテンシャルは十分あると考える。

 

他方、スタートアップにはシード期から事業化・社会実装に至るまで様々な困難があるという声も聞く。経済産業省では、成長フェーズに応じたスタートアップ支援のためのメニューをいくつか用意している。例えば、新興国の社会課題解決につながるビジネスプランの開発等の支援を行うため、「社会課題解決型国際共同開発事業(飛びだせJAPAN!)」を展開している。また、JETROサンパウロ事務所では、中南米に進出したいスタートアップを対象に海外展開支援や資金調達を支援するためにグローバルアクセラレーション・ハブを展開。さらにブラジルのスタートアップを所管するApex-Brasil(ブラジル輸出投資振興局)と連携し、エコシステムのEXITまでを描くべく現地実態に即したスタートアップ成長プログラムを2022年から提供することを予定している。

スタートアップが海外展開に必要となる、①実証研究、②資金調達、③ビジネスマッチ、④成長プログラムなどは、これらメニューを通してきめ細かく支援していきたい。また、これらを促進するためにも、日伯政府間の貿易投資促進委員会など政府間対話も通じてスタートアップ協力を推し進めていきたい。(談)

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