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宇宙利用の安定を維持する「電離・熱圏予測」の世界

宇宙利用の安定を維持する「電離・熱圏予測」の世界

電離圏や熱圏の状態を予測する大気圏—電離圏シミュレーション(NICT提供)

現在では誰もがスマートフォンを使って自分の現在地を知り、画面上で上空から見た地表の画像を動かして世界中の場所を調べることができる。そこには、全地球測位システム(GPS)衛星などを用いた測位技術や高い解像度の衛星写真が使われている。この例のように我々は地上で暮らしながら、人工衛星などによる通信や測位、気象観測、災害把握などに宇宙からの情報を利用している。

宇宙空間の利用を安定的に維持するには、地球大気の最上層に位置する「熱圏」や、その一部がイオン・電子となった「電離圏」の状態を把握する必要がある。熱圏の大気はそこを通る低軌道の衛星やスペースデブリに対して抵抗として作用し、それらの軌道を変える。

一方、電気を帯びた電離圏は電波の伝搬に作用するため、衛星から地上に情報を送る電波などに影響する。これら熱圏と電離圏では、地上の天気と同じように日々の変動や「嵐」、局所的な乱れが発生し、宇宙空間の安定利用の妨げになりうる。

情報通信研究機構(NICT)では、「宇宙天気予報」を配信しており、活動の一環として電離圏の状態を観測するほか、電離圏や熱圏の状態を予測する技術の開発に取り組んでいる。地上の気象予報にシミュレーションを用いるように、電離圏と熱圏の予測においても大気中で起こる物理・化学過程の方程式を解くシミュレーションモデルが有用である。

最近の研究から、地表付近の気象活動が大気のうねりを通じて高度の離れた電離圏まで影響することが報告されている。よって電離圏・熱圏だけでなく、地表付近の大気まで拡張したモデルが適当である。また、他の領域の変動や乱れの駆動源として、太陽フレア発生時に顕著に変化する太陽紫外線・X線や、極域のオーロラが光る時に宇宙から大気に注がれる電流の効果をモデルに取り込むことも必要となる。

NICTと九州大学、成蹊大学は、国内のモデルリソースを結集し、異領域をまたぐ大気圏—電離圏モデルの開発に成功している。現在スーパーコンピューター上で、リアルタイムの大気圏—電離圏予測シミュレーションを試験的に実施している。

今後は電離圏の観測データとの融合により精度の高い予報を可能とする技術を導入し、検証と改良を重ね、予測シミュレーションを本格運用する予定である。

◇電磁波研究所・電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室 主任研究員 陣英克 04年東大院博士課程修了後、NICTに入所。電離圏や熱圏の予測技術の研究に従事。博士(理学)。
日刊工業新聞2022年12月21日

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