千葉から新潟へ、ITベンチャー創業者がUターンに踏み切ったワケ
ITベンチャーのフラーは2020年11月、千葉県柏市から新潟市中央区に本店を移し、創業者の渋谷修太会長(33)も新潟県へUターンした。感染症の流行によって地方移転への関心は高いが、会社や経営者の移住となると決断は難しい。渋谷会長は「故郷に帰りたい人が仕事がなくて帰れない状況を変えたい」と決意した。移住後、社業とともに起業支援による職場づくりに奔走する理由を渋谷会長に聞いた。
インタビュー/フラー会長・渋谷修太氏 ”戻りたい”思い後押し
―地方に移転した経緯を教えて下さい。
「後輩から新潟に帰りたいが、地元にIT企業がないと相談を受けた。その1人のニーズから17年に新潟支社を立ち上げると、同じ境遇の方が多いと気づいた。働く場づくりなら起業家である自分が役に立てると思い、新潟へ戻った」
―新潟ベンチャー協会代表理事として起業を支援していますが、地元にフラーのライバルを増やすことにはなりませんか。
「ライバルという感覚はない。むしろ競合が多いと人材が集まる。それに新潟に戻りたい人に選択肢を増やすことに価値があり、競争環境がないと賃金も上がらない。“株式会社新潟県”という発想が必要だ」
―地方のメリットは。
「経営者仲間との距離が近く、飲みながら『どうしたら新潟が良くなる』と会話する。地域を良くしたい共通テーマはパワーであり、異業種ともつながれる。それに働く人のモチベーションも大きい。地元出身者が地元に貢献しようと思うとやる気が出る。自分たちの成長で地域も元気にするというのは、すごく幸福度が高い」
―Uターンを増やすのは難しいのでは。
「戻りたいという潜在的な思いを引き出し、後押しすることだろう。行政の補助金もあるが、心を揺さぶらないとダメだ。そう意識して発信してきたら、共感して戻ってきた仲間がいる。僕だけで50人は呼べたのでは。みんなの力で100人、1000人に増やしたい」
―社業がありながら地域のために活動する理由は。
「『自分が帰らなかった新潟』と『帰ってきた新潟』との差が、僕の価値と思っている。起業家は自分が存在した世界か、しなかった世界の差分を大切にする。そのマインドを持つ起業家が地方へ分散することが大事だ」
―経営者が地方移転に一歩を踏み出すには。
「課題が山積した地方にビジネスチャンスがある。それにSDGs(国連の持続可能な開発目標)が大切にしようと言っている森や海は地方にある。これはヒトやモノを一極集中させた今までの資本主義とは違う。僕も東京を離れる時は不安だった。しかし居場所を変えることは、人生を変える大きな手段。そういう挑戦は重要と思う」
【記者の目/地方移転、ビジネスチャンスに】
取材中「メリット、デメリットで意思決定をしない」と語っていたが、移転後の多くの利点を話してもらえた。さまざまな課題に直面する地方には、ビジネスのヒントが多い。地方移転を検討する企業は、自社ができる地域課題解決を考える必要がありそうだ。渋谷会長の22年の抱負は地域間連携。複数の地方の企業がつながったビジネス創出を目指す。(編集委員・松木喬)