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自動車電動化で縮小懸念の伝動ベルト市場、メーカー3社のトップが語る対応策

自動車電動化で縮小懸念の伝動ベルト市場、メーカー3社のトップが語る対応策

バンド-化学の高負荷対応歯付ベルト「Ceptor-X Plus(セプターテンプラス)」

伝動ベルトメーカー3社は、原材料高騰や自動車メーカー減産などの影響が長期化することで、2022年も厳しい状況が続きそうだ。原材料高騰に対しては、製品への価格転嫁を順次進める。ただ自動車向けではメーカーとの価格契約があるため、容易に値上げできない。また自動車電動化の波を受け、将来は従来型の伝動ベルト市場全体の縮小も懸念される。各社とも、既存事業の強化と並行して、新規事業の育成を急いでいる。(神戸・園尾雅之)

原材料高騰は長期化の様相を呈している。バンドー化学の吉井満隆社長は「経済が回復すると需給の関係で当然(価格は)上がる。すぐには下がらないだろう」と分析。製品への価格転嫁を進める。ただ製品の値上げだけで、コスト増分全てカバーできるわけではない。コスト低減のための効率化投資も重要となる。

三ツ星ベルトは工場建屋への太陽光発電パネル設置を進め、脱炭素化に対応する(神戸事業所の新棟屋上)

電気自動車(EV)シフトが叫ばれる中でも、アジアなどでガソリン車の市場は底堅い。三ツ星ベルトは23年にインドで新工場を稼働させ、自動車・2輪車向け伝動ベルトのニーズを取り込む。池田浩社長は「(新工場用の)土地はまだ半分空いており、有効活用を検討中だ」と、さらなる投資に意欲を見せる。ニッタも、自動車向け伝動ベルトなどを手がける持ち分法適用会社のゲイツ・ユニッタ・アジア(大阪市浪速区)で、インド市場の開拓を進める。

ただ伝動ベルト市場の将来的な縮小に対する危機感は強く、各社とも新事業への投資を加速している。

ニッタのNamd技術で高強度化した糸をエポキシ樹脂と複合化した中間材料(プリプレグ)

バンドー化学は医療機器事業で数年以内にも海外進出する方針。ニッタは、高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を実現できる「Namd(エヌアムド)」技術による新製品について、「早々に生産体制を整える」(石切山靖順社長)ため、奈良工場(奈良県大和郡山市)の増設を決めた。三ツ星ベルトは、銀ナノ粒子による半導体向け導電ペーストなどの事業化を加速する。

伝動・搬送ベルトの分野で長年競合してきた3社が、それぞれの新市場をどう開拓するかが注目される。

バンドー化学社長・吉井満隆氏「アフターメンテに照準」

―22年の見通しは。

「21年末には当社のアジア拠点などでも新型コロナウイルスの感染者が激減した。ワクチン接種率も高くなり、経済活動は並行して進むだろう。半導体不足の影響で減産した自動車メーカーも通常稼働に戻りつつあるが、まだまだ懸念が残る。中国では北京冬季五輪を前に環境規制を強化しており、当社の中国工場でも生産が制限される可能性がある」

―原材料高の影響は。 

「高騰の影響は9月ごろまで残るだろう。この1月に搬送用樹脂ベルトを値上げしたのに続き、3月には農機や産機向け伝動ベルトなども値上げする。自動車向けは、次の年間契約改定時に反映させたい」

―その自動車業界で電動化の波が加速しています。対応策は。

「組み込み用ベルトは、30年以降には激減する。ただガソリン車が走る限り、補機駆動用ベルトのアフターメンテナンス市場は残る。利益率が高い自社ブランド品で、ニーズを囲い込む。またEVにも、電動パワーステアリング(EPS)、ブレーキシステム、スライドドアなどで伝動ベルトが使われる。今後はパワー半導体向け放熱シートやディスプレー用光学フィルムなど、ベルト以外の自動車向け製品を増やさないといけない」

―23年3月期までに、コア営業利益率10%を目指しています。

「21年4―9月期で9・5%。自動車部品事業と産業資材事業では、既に10%程度で推移している。伸び悩んでいるのは高機能エラストマー製品事業だ。フィルムなどの新製品がまだ十分に利益を出せていない」

―医療機器分野も注目を集めています。

「19年にAimedic MMT(東京都港区)を買収して以降、整形外科、呼吸器、嚥下(えんげ)訓練の3領域で製品を投入した。ゴムやエラストマーの技術をベルト以外でどう生かせるかを考えてきた。数年内には、海外展開も視野にある」

―競合他社と比べ利益率が低めです。生産性向上の取り組みは。

「複数の製造拠点で高効率な新ラインを導入し、成果を上げつつある。既に原価率70%以下を達成しており、本格稼働すれば、さらなる効果が期待できる。ただ短期的な利益にあまりとらわれず、中長期的な体制整備を大事にしていきたい」

三ツ星ベルト社長・池田浩氏「大型農機向け提案強化」

―22年の見通しは。

「半導体不足に伴う自動車メーカーの減産は、9月ごろまで続くのではないか。コロナ感染は、アジアが落ち着きつつあるが、欧米が心配だ。グローバル市場全体への影響が懸念される。原材料高騰もまだ続くだろう。この1月からは一般産業向け伝動ベルト、金属製品も値上げした。一方、自動車向け伝動ベルトは価格契約があるので値上げは難しい」

―自動車電動化の波にどう対応しますか。

「当社の伝動ベルトと金属部品が納入される自動車の生産は、25年までは増える。それ以降は、EV向けのEPS、ブレーキシステム、スライドドアなどで使う伝動ベルトの需要増に期待する」

―ただ、それだけではガソリン車向けベルトの減少分を補うには不十分です。

「もちろん、減少分をそれで完全に補えるわけではない。そのため欧米の大型農機メーカー向けに伝動ベルトの提案を続けており、その案件が芽を出しつつある。大型農機では、大型ベルトが必要で、1台に使うベルトの本数も多い。そうした分野が着実に成長すれば、減少分を補える。ベルト製品以外の建設資材でも、屋上用防水シートなどで、海外展開を強化したい」

―21年に社長に就任しました。現状の課題をどう認識しますか。

「もっとチャレンジしないといけない。今後は研究開発や生産再編を加速する。一例としてインドで23年に新工場を稼働させ、自動車・2輪車向けベルトの生産能力を1・5倍に高める。同工場では一般産業向けベルトの生産も検討中だ」

―生産再編とは。

「各地で要求される製品が変わってきた。生産品目を再編し、効率化したい。ベルトに組み込む芯体コードの加工を手がける滋賀工場(滋賀県高島市)では、必要な材料を同工場内で調達できるように新棟を建設し、事業継続計画(BCP)対応を進めた。また全拠点において、建屋新設の際は太陽光発電パネルを設置することで、脱炭素化に対応する」

―研究開発の状況は。

「老朽化で建て替え中の神戸事業所(神戸市長田区)に、本社の研究開発部門を移転する検討をしている。半導体市場を狙った銀ナノ粒子の導電ペーストなど、伝動ベルト以外の新製品開発を加速していく」

ニッタ社長・石切山靖順氏「CFRP強化技術で攻勢」

―22年の見通しは。

「21年はコロナ影響を大きく受けたが、リーマンショックの時と異なり、需要が消失したわけではない。21年4―9月期はそれを裏付ける好業績だった。22年は既存事業の強化だけでなく、新事業でも動きを示したい。原材料高騰に対しては、既に製品値上げで対応したが、それだけではカバーできない。代替素材での対応を事業部単位で検討しているほか、コスト削減のための設備投資も積極的に続けていく」

―ベルト・ゴム製品事業の動向は。

「安定感もあり計画通り進んでいる。物流業界向け搬送ベルトを中心にグローバル化を強化する。業績が堅調な北米などで積極的に投資していきたい」

―自動車の電動化へどう対応しますか。

「中長期経営計画を策定した1年前から、脱炭素化やEV化の動きが加速している。ホース・チューブ製品事業でEV対応の製品開発を進めているが、必要であれば戦略を柔軟に軌道修正する。自動車業界では、伝動ベルトのチェーン化が先行している。自動車向け伝動ベルトを手がける持ち分法適用会社のゲイツ・ユニッタ・アジアも、ウエートが小さくなりつつある。EPS関連製品などを具体化しないといけない」

―新事業の状況は。

「当社の『Namd』が優れた技術であると、顧客から客観的に評価された。同技術は、よりしなやかCFRPを実現できる。ヨネックスのテニスラケットなど、現在はレジャー向けが中心だが、今後は一般産業向けにも展開する。そのため奈良工場に新棟を建設し、糸やプリプレグの本格的な生産を23年初頭にも始める計画だ。当然、自動車業界向けも視野にある」

―31年3月期までに海外売上高70%増(21年3月期比)を目指しています。足元での海外投資の計画はいかがですか。

「インドでフィルター生産の合弁会社を設立し、8月に稼働予定だ。HEPAフィルターを販売し、現地の医療業界へ入り込む足がかりにしていきたい」

―脱炭素化に向けた社内の取り組みは。

「工場で使う電力を再生エネ由来に切り替えるなどして、二酸化炭素(CO2)排出量を31年3月期に14年3月期比46%削減する。当社が保有する森林資源の維持管理も大切だ」

日刊工業新聞2022年1月6日

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