東大とNTTが開発挑む「10億量子ビットの光量子コンピューター」、パラダイムシフトなるか

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量子光源のスクィーザー

電子計算機の次は光コンピューターと言われてはや数十年。電子計算機の代替は進まなかったが、量子もつれを利用した光量子コンピューターとして再び投資を集めている。日本では東京大学とNTTが10億量子ビット規模の汎用光量子コンピューターを開発する。内閣府の大型支援事業「ムーンショット型研究開発事業」で2030年に量子誤り訂正の実現を目指す。(小寺貴之)

「NISQを開発して誰が買うのか。量子コンピューターは金を集めるためのワードになってしまった」と古沢明東大教授は嘆く。NISQは誤り耐性のない中規模の量子コンピューターだ。計算結果に誤りが含まれるため、複数の量子ビットで多数決をして正しい結果を得る。そのため実用的な計算機には100万量子ビット必要とされる。現在実現しているのは約100量子ビット。実用化まで数十年かかるとされるゆえんだ。

海外VB追う

古沢教授は「本質的に膨大な量子ビットを用意できないと成り立たない」と指摘する。現行の超電導などを使うゲート方式からパラダイムを変える必要があるという。古沢教授がNTTと進めるのが測定誘起方式の光量子コンピューターだ。量子もつれ状態にある光子で10億規模の量子ビットを作り、電子計算機のルックアップテーブル方式のように計算済みの参照表を使って計算結果を求める。

同方式は米サイクオンタムが6億6500万ドル(約765億円)、カナダ・ザナドゥは1億4500万米ドル(約165億円)を調達した。古沢教授は「投資家はゲート方式は無理だと光量子に流れた。ザナドゥは我々の方式をコピーしてやっている」と説明する。桁違いの資金を確保したベンチャーを日本は国プロで追いかける。

NTTはスクィーズド光の光源を開発。量子ノイズを75%圧搾して多重量子もつれ状態の光子を連続生成できるようになった。これは世界初で光量子コンピューターを組めるようになった。次の目標は量子ノイズの90%圧搾だ。これが誤り耐性の閾値になる。NTTの梅木毅伺特別研究員は「90%圧搾はいまの技術の延長で到達できる」と自信をみせる。

投資競争に勝つ

ルックアップテーブル方式の計算法も開発した。量子計算のアルゴリズムも開発中で、この出来によって量子ノイズの閾値が下がり、計算に使える量子ビットの数が増える。古沢教授は「本当に必要なのはクロック周波数が速く並列処理可能な汎用の計算機。誤り訂正もできない計算機ではない」と断言する。

ムーンショット事業の期間は25年まで。同事業で基礎を固めたら、投資競争に勝ち抜くための資本が必要になる。

出典:日刊工業新聞2021年12月30日

光量子コンピューター向け光源開発 研磨加工でノイズ抑制

出典:日刊工業新聞2021年12月23日

NTT先端集積デバイス研究所の梅木毅伺特別研究員と柏﨑貴大研究員、東京大学の古澤明教授らは、光量子コンピューター向けの光源を開発した。光源の量子ノイズを75%圧搾して多数の光子の多重量子もつれ状態を実現した。10億量子ビット規模の誤り耐性型並列量子コンピューターの構築につながる。

ニオブ酸リチウムを導波路としてスクィーズド光という特殊な光を生成する。スクィーズド光には偶数個の特殊な状態の光子が含まれる。ビームスプリッターでスクィーズド光の光子を半分に分けると、2本の光ファイバーに量子もつれ状態の光子がそれぞれ流れることになる。このもつれ状態を利用して量子計算する。

今回、ニオブ酸リチウムの加工をフォトリソグラフィーから研磨加工に切り替えた。導波路の表面粗さが改善して量子ノイズを抑えられた。すると連続的に生成する光子が時間的に一つ前の光子と量子もつれ状態にある多重化が実現できた。

日刊工業新聞2022年1月4日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

電子計算機を超える計算機は、量子でも光でも、どっちでもいいから本当に実現するのだろうかと思います。今回の光量子コンピューターでは別々の光ファイバーの進む光子が、なぜ量子もつれにあるのか「アインシュタインでも理解できなかったんだから、君は観測結果を信じなさい」と諭されました。いくら世界を変えるインパクトがあろうとも、自分の力では腑に落ちないので気持ち悪さが残ります。何か不具合があったときに原理原則がわからないものを品質保証できるのかと思ってしまいます。765億円を投資できるVCに頭が下がります。そして天才に任せてないで、電子計算機並みにエンジニアリングできる土方のプログラマーを大量に育てないと計算機は普及しないのでは思ってしまいます。どの量子コンピューターに人生を賭けるのか。難しい問題です。

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