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「日立・川村」と「パナソニック・津賀」-電機V字回復のレシピ

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「日立・川村」と「パナソニック・津賀」-電機V字回復のレシピ

日立の川村相談役(左)とパナソニックの津賀社長


とにかくキャッシュフローをプラスに


日刊工業新聞2012年7月23日付


 6月に就任した津賀一宏社長率いるパナソニックの新体制が始動した。約7000人の本社部門を大幅にスリム化するなど“内向き”の仕事を減らし、全社一丸で顧客価値を追求する組織に変えた。「津賀色」を約33万人の従業員に浸透させ、2012年3月期に計上した過去最悪の当期純損失7721億円からV字回復に導けるか。18年に迎える創業100周年を見据え、8代目社長の挑戦が始まる。

縦割り打破、社内資産を活用


 2月、AVCネットワークス社本社(AVC社、大阪府門真市)。テレビ事業を担う社内分社の一室で吉田守上席副社長(現AVCネットワークス社社長)らAVC社幹部と関東、中部、近畿などの有力パナソニックショップの2代目経営者の6人が向き合っていた。

 「本当に消費者目線の商品開発はできているのか」「(業績の)足を引っ張っている認識はあるのか」。地域販売店とAVC社幹部が直接意見を交わす機会は少ない。“テレビ失速”で苦戦を強いられる販社経営者から、ここぞとばかりに厳しい言葉が吐き出される。

 AVC社の対応は早かった。5月にかけてテレビの商品企画担当者を複数の販売店などに出向かせ、高齢者が求める機能などをヒアリング。来年度の新製品に反映させるという。販社経営者のひとりは「こんなに早く動いてくれるとは」と驚きを隠さない。

 昨年、兵庫県尼崎市の最新鋭プラズマパネル工場の休止を決断したのは当時AVC社トップだった津賀社長。赤字脱却に向けてあらゆる手を打ち「(利益が出なければ)テレビはコア事業ではない」と言い切る。危機感を醸成し、組織に機動力を植え付けた。

 AVC社だけではない。「パナソニックは非常に縦割りな会社」(津賀社長)。旧パナソニック電工、三洋電機を加えた潜在能力が利益に結びついていないことを危惧する。企業価値を最大化する仕組みづくりの一つが本社改革だ。

 パナソニックが70年にわたった事業部制の歴史に終止符を打ち、ドメイン制をスタートしたのは中村邦夫社長時代の03年。各ドメインに権限を委譲したが、情報の共有などで縦割りの弊害も目立つようになっていた。「組織の壁を低くすることが私の使命だと思っている」(津賀社長)という。

 有形、無形の社内資産をもっと生かせないだろうか―。津賀社長が車載機器の社内分社であるオートモーティブシステムズ社社長を務めていたころ、白物家電の社内分社が持つ電動コンプレッサーの技術を活用し、松本工場(長野県松本市)で環境対応車用のインバーター一体型電動コンプレッサーを立ち上げた。

 カーオーディオやカーナビゲーションシステムなど既存製品について生産の海外シフトが進む中、社内資産を有効利用し、新しい価値を生み出した好例だ。「90のビジネスユニット(事業単位)を“見える化”する」(同)ことで、こうした動きが加速すると踏む。

 一方、外部リソースを機動的に使いこなす身軽さも兼ね備える。有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルの開発ではライバルのソニーと手を組む。「顧客価値につながらない無駄を徹底して省く」(津賀社長)―。10月スタートの新本社がその試金石となる。

自動車・航空は成長戦略の象徴


 「アビオニクスにはかなり肩入れしていましたから」。最近、津賀社長がたびたび口にするアビオニクスとは、航空機内音響・映像(AV)機器。パナソニックが7割のシェアを握る。欧エアバスなどの顧客の訪問を含めて、津賀社長が年4回も海外出張する力の入れようだ。世界の航空機需要は拡大しており、高い成長性を期待できるのはもちろんだが、アビオニクス事業には復活のヒントが隠されている。

 子会社のパナソニックアビオニクス。ヘッドクオーターを米カリフォルニア州に置き、日本人はほとんど関わっていない。欧エアバスや米ボーイングと連携し、200を超える世界の航空会社を顧客に持っている。

 海外、BツーB事業の拡大は大坪文雄社長(現会長)時代からの課題。アビオニクスのように特定の顧客と密着し、確実に課題を解決するビジネスモデルは「(コンシューマー製品主体で)プロダクトアウトの発想が強かった昔ながらのパナソニックにはない」(幹部)。ビデオエンターテインメントシステムに限らず、照明やディスプレー、クラウドの活用など、社内の技術資産を生かせる領域も広い。

 同様のビジネスモデルを持つのが自動車だ。津賀社長は自動車メーカーと太いパイプを持ち「社長になっても、カーメーカーのトップとは今まで通りに付き合い、その場でさまざまな期待を表明していただけると思っている」と自信をのぞかせる。積極投資に打って出る電池は、買収した三洋電機との相乗効果が期待されている分野。15年度に車載用リチウムイオン電池で1300億円の販売を狙って、20年に世界シェア約40%を目標に掲げる。

 足元のパナソニックの株価は500円台に低迷しており、過去10年のピークである2870円から大きく落ち込んでいる。企業の価値を示す株式時価総額でも、競合製品が多い韓国のサムスン電子に大きく水をあけられている。この差を埋めるにはテレビ事業の黒字化はもちろん、高収益事業をどれだけ育てられるかにかかっている。

 パナソニック本社正門を入ると米国の発明家であるトーマス・エジソンら「科学と工業の先覚者」11人の銅像が並ぶ。電球を左手に持ち威風堂々とたたずむエジソン像の視線は、創業者である松下幸之助氏の執務室に向けられていたという。研究を自得した先覚者のエジソンと向き合って見習った幸之助氏は「経営というものは、教えるに教えられないものです。経営というものは自ら自得しなければなりません」という言葉を残した。

 18年の創業100周年を託された津賀社長はエジソン像になにを思い、視線をどこに向けているのか。「パナソニックの社長は私にとって大きなチャレンジ。業績不振にあえぐパナソニックグループを復活させたい」。津賀社長の戦いが始まった。

津賀社長インタビュー「組織を小さくすることで『手触り感』が出る」


 ―テレビ事業の構造改革が急ピッチで進んでいます。
 「海外で通用するデザインやコストをつくり込んだ。セット事業は黒字を確保している。パネル事業は赤字だが、テレビ以外の用途開拓で計画以上のペースで改善している。セット事業の黒字を簡単に維持できるとは思っていないが、良い手応えを感じている。北米で赤字にならなければ大丈夫だ」

 ―10月には本社改革がスタートします。
 「“組織の壁”を低くする上で重要だ。組織を小さくすると『手触り感』が出る。ビジネスユニット(BU、事業単位)で見ることで、本社の果たす役割も明確になる。ドメイン(事業分野)単位では外から何をしているか分かりにくいが、90のBU長が互いに見えるようになれば、連携プレーも図りやすい。一方、研究開発(R&D)ではドメイン同士の交流の方が都合が良い」

 ―1月に旧パナソニック電工、三洋電機を統合した新体制を発足したばかりですが、さらに再編する考えはありますか。
 「ありえる話だ。中期経営計画のワーキンググループでは組織問題も提言されている。中期計画では(100周年を迎える)18年の姿を描いて、最初の3年はどうあるべきかを意識する。18年の姿が見えないものには手を打っていく。課題認識を持ってもらう必要がある」

 ―現中期計画では営業利益率5%を目標に掲げました。今年度下期に策定する次の中期計画の目標値は。
 「(利益率が)多いに越したことはない。それをどう活用するかが問題だ。M&A(合併・買収)で事業領域を広げるといった使い道はあるが、今はキャッシュフローがマイナスであることを考え、これをプラスに転換して投資できるようにすることが喫緊の課題。投資したい案件はたくさんあるが控えなければならないのが現状だ」
(文=鈴木真央、長塚崇寛、今村博之)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
二人の共通項を上げるとすれば、経営者としての「手際の良さ」と「人と群れない」こと。そしてこれほど多くの改革をこなせたのも、「情」より「理」を優先してきたから。理を優先するには、一歩引いて客観的に物事を見る力がある。そういえば、二人とも人見知りであるが、慣れた人にはよくしゃべる。津賀さんの方が「直感」を働かすして決めることが多いような気がする。それでいてリアリスト。川村さんはとにかくリベラルアーツから世界史まで教養の深さがあり、実はロマンチストではないか。

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