女性初の連合会長は労組の救世主になるか、突破すべき課題と誕生の裏話

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「官製春闘」による賃上げ効果が薄れ、政府による関与を見直す時期にきている(2019年)

春闘が岐路を迎えている。ここ数年、席巻してきた「官製春闘」による賃上げ効果が薄れ、政府による関与を見直す時期にきている。連合をはじめとする労働組合も、相応な賃上げや労働環境の改善を実現できたかどうかは疑問だ。パートやアルバイトなど非正規社員が増え、従来の正社員を対象とする対応では限界がある。男女間、正規と非正規の格差も広がるなど課題は山積。春闘や労働組合のあり方が問われている。(幕井梅芳)

芳野氏、女性初の連合会長 労働組合に新風

日本の労働組合運動で中心となる連合に新しい風が吹き始めている。10月6日の定期大会で、中小企業の製造業で構成するものづくり産業労働組合(JAM)出身の芳野友子連合副会長(55)が女性初の連合会長に就任。中小の産業別組合出身者としても初めてだ。

岐路に立つ労働組合はボトムアップ型の運動形態に変わろうとしている(芳野連合会長)

これまで連合会長は大手産別組合出身者が務めてきた。前任の神津里季生会長も主要製造業の労組でつくる金属労協出身だ。今回も、当初は大手産別出身者が有力視されていたが、JAM出身者で中立な立場の芳野氏に白羽の矢が立った。ジェンダー平等推進という社会的要請も追い風になった。

実は裏話もある。連合は役員と現場の間に意識の隔たりができ、見えない壁になっていたとの指摘があった。課題克服の救世主として「芳野さんの突破力と行動力には定評がある」(安河内賢弘JAM会長)といった声が後押しし、芳野会長誕生につながったとの見方だ。

「連合が変わったと思ってもらえるようにならないといけない」―。就任以来、芳野会長はこう繰り返す。労働運動のあり方については「労働運動は従来のトップダウン型でなく、一人でも多くが参画するよう現場の声に耳を傾けるボトムアップ型を目指す。連合内だけでなく、外の声も拾う」と強調。2日に開かれた春闘中央討論集会でも「現場の声をしっかりと受け止め、格差是正を社会にアピールする」とあいさつした。

約178万人の組合員を擁する日本有数の産業別組合組織、UAゼンセンも現場重視の歩調を合わせる。5日開催の政策フォーラムで松浦昭彦会長は「UAゼンセンは多種多様な組合で構成している。同じベクトルを持ちながら相互理解して(運動を)進める」と説明。「現場と乖離した要求とならないよう気をつける」とし、現場の声の重要性について言及した。

現行の活動に限界

主要な組合のトップが相次いで「現場の声」重視を打ちだした意味は大きい。現行の活動方法だけでは、課題に十分対処できないという危機感が背景にある。

例えば連合は、力の源泉となる組織の規模が年々減少。発足時は約800万人だったが、現在は約700万人にとどまる。労働市場で4割近くを占める非正規労働者の組織化も十分でない。非正規の組織化をいかに進めるかが求められている。

また、集団的労使関係の強化も課題だ。象徴的なのが「労働者代表制を前向きにとらえている」(連合会長代行の松浦UAゼンセン会長)との指摘だ。労働者代表制は職場の働き手全体の声をまとめる仕組みを法制化するというもの。労組の中には、労働活動が阻害されるといった批判的な意見もあった。ただ、労組に未加入の働き手の意見も吸い上げられるなどメリットもある。既存の労組との役割分担も可能で、多様な働き手の声を反映する有効な手段になりうる。

インタビュー/日本総合研究所副理事長・山田久氏 政労使で成長の道探る

春闘や労働組合の課題や今後のあり方について、労働問題に精通する日本総合研究所の山田久副理事長に聞いた。

―労組の現状をどうみていますか。
 「日本の労組は生産性向上に協力する一方で、賃上げや処遇改善が十分でない。連合や産業別組合などが旗を振るものの、基本は企業別組合のため雇用維持を優先する。企業も雇用維持を尊重し、既存事業を見直すことなく続けるため不採算事業が残ってしまう。一方、北欧(の組合)は不採算事業の整理に協力するだけでなく、労働者の再就職や能力開発にも力をいれる。日本は人口減少が続き、一人ひとりの生産性向上が不可欠。北部欧州型を目指すべきだ」

―「官製春闘」と言われ、政府の賃上げへの関与が問われています。
 「政府はここ数年賃上げ要請してきた。金融緩和や円安誘導、法人税減税などさまざまな政策とセットで、ある程度賃上げを実現した。しかしここ1、2年は効果も薄れ、限界もでてきた」

「データに基づく新たな仕組みを取り入れるべきだ。労働政策やマクロ経済の専門家による第三者委員会をつくり、賃上げの目安を示す。同時に労働移動や人材育成、取引価格適正化をセットで実現する具体的方策を議論する政労使会議を発足させる必要もある」

日本総合研究所副理事長・山田久氏

―転職や再就職支援など労働の流動化も課題です。  「北部欧州は雇用流動を促す再就職や人材開発支援に踏み込み、政府も支援に力を入れている。産別組合が強く、転職もしやすい。特にドイツでは転職しても大きく賃金は変わらない。日本が流動化を進めるには、政府が労働者が安心して転職する支援が必要だ。民間の仲介サービスは玉石混交で、質を担保する仕組みが不可欠だ」

―今後の労働組合のあり方について、どう考えますか。  「企業別組合は非正規への対応など課題に直面する。今後、産別内の連携を強めていくべきだ。UAゼンセンやJAMなどの動きは参考になる。例えば自動車は脱炭素の世界的な要請が高まり、大きな再編につながる可能性がある。産別の連携を強め、政府が産業政策面から支える体制が必要だ」

「労働者代表制の検討も有効だ。日本は団体交渉と労使協議の主体が一緒だが、ドイツは分かれる。団体交渉は組合が賃上げを議論し、労使協議は職場の代表が選ばれ、労働者の解雇や再就職などを議論する。日本も労働者代表制の仕組みを入れ、既存の組合の役割を補完していけば、機能するのではないか」

日刊工業新聞2021年11月11日

キーワード
春闘 労働組合

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