フリーキャッシュフロー1兆円突破のKDDI、「提携戦略が一番うまい」と言われるワケ
「コロナ禍だったことも言い訳としてあるが、前年度は、あまり大きなM&A(合併・買収)をやれなかった」。KDDIの高橋誠社長は、こう振り返る。同社は2021年3月期のフリーキャッシュフロー(CF)が1兆円を突破し、NTTドコモやソフトバンクを含む携帯通信大手3社で首位となった。一般論で言えば、多くの現金を抱えた状態は投資の機会を逸していることの表れだと見なされる場合もある。
だが、SBI証券企業調査部の森行真司シニアアナリストはKDDIについて「単独ではNTTと勝負できなかった歴史的経緯もあり、提携戦略が(通信業界の中では)一番うまい」と分析。10年に行われたジュピターテレコム(現JCOM)への資本参加などを成功例として評価する。「(投資対象案件を)見極めており、メリハリがついている。(20年度の投資が少なくても)単年度で議論すべきではない」。
実際、KDDIで財務を担当する最勝寺奈苗執行役員は、21年3月期のフリーCFについて「金融事業の一過性の影響がある。住宅ローンの債権流動化を行っており、現金が積み上がった。首位は“たまたま”だ」と冷静。本来のフリーCFの水準は7000億円前後との見解を示す。
その上で「事業成長に必要な投資は(規模の)大小に関わらず前向きに検討していく」とした。21年3月期のD/Eレシオ(負債資本倍率)が前期比0・04ポイント減の0・35倍に抑えられているなど「財務的には今のところ問題ない」という。低金利環境も続いており、金融機関からの資金調達が困難になる可能性は少なそうだ。「金利が上昇しても、(投資を)控えることは基本的にない。その時に最適な調達方法を考える」とのスタンスだ。
ただ、最勝寺執行役員は事業環境を楽観してはいない。「(政府の政策による)料金引き下げのリスクは常に抱えているし、大きな災害があると通信事業の復旧にお金もかかってくる」。どのタイミングで大型投資に踏み切るのか注目される。