「最後は人」、出光社長の明快な経営哲学

木藤俊一氏

  • 1
  • 4

「企業は事業を成功させ、利益を上げるために人を育てるのではない。事業は手段、人の成長こそが目的」

出光興産の木藤俊一社長の経営哲学は明快だ。いま産業界は脱炭素が至上命題で、とてつもない技術革新や莫大(ばくだい)な投資が求められるなか腹をくくる。

「社員が一丸となって目標に向かい、強くなることで企業は持続する。最後は人。壁が高いほど強くなれるチャンス」

5月、昭和シェル石油との経営統合から2年を経て、ようやく企業理念「真に働く」を策定した。経営統合を実現し社長を引き継いだ木藤氏は、求心力となる経営理念をすぐには作らなかった。木藤流の気配りだ。

出光のカリスマ創業者、出光佐三氏は「人間尊重」「大家族主義」「一人ひとりが経営者」「失敗は授業料」など多くの金言を残し、DNAは脈々と引き継がれている。一方、外資系のシェル出身者にとって佐三氏の言葉はあまりにも重い。出光固有の理念を押しつけられれば気持ちは離れる。このため2年かけ、さまざまな職場や階層で議論を重ね「真に働く」が生まれた。

だが、この言葉も佐三氏の金言の一つで「国や地域の事を思い、考え抜き、働き抜いているか」と問うたものだ。「原点回帰しすぎ。新会社の理念にふさわしいか」と木藤氏は懸念を示した。それに対し社員らから「存在意義や大義をしっかり感じ働く人の集まりが企業。さまざまな活動を包含する言葉だ」と“諭された”という。

佐三氏以外にも2人の先輩社長の影響を受けた。天坊昭彦氏はバブル崩壊や規制緩和で陥った経営危機を乗り越えた。「理念を言い訳にするな。給与分は働け。皆が失敗したら会社はつぶれる」とあえて金言を否定した。そして2006年、創業家を説得して上場を果たした。

「カリスマ創業者の思いが曲解され経営破綻しないよう、あえて振り子を逆に振る荒技を学んだ」

また市場縮小で業界再編が進む中「創業家のいる出光は合従連衡には入れない」と言われた。前任の月岡隆氏は「問題意識を行動に移さないと将来はない」と持ち前の胆力でシェルとの経営統合を決断。大反対の創業家を尊重しつつも折り合いを付け、木藤氏に引き継いだ。

オーナー会社の宿命だが、創業者の理念や考え方は愚直に浸透している。「会社は生き物。転機は来ても原点は変えない」と、脱炭素の厳しい時代にも、人を育てることで難局を乗り切る覚悟だ。(編集委員・板崎英士)

【略歴】きとう・しゅんいち 80年(昭55)慶大法卒、同年出光興産入社。05年人事部次長。08年経理部次長、11年執行役員経理部長、13年取締役、14年常務、17年副社長、18年社長。神奈川県出身、65歳。

日刊工業新聞2021年10月12日

キーワード
出光興産 社長 経営理念

関連する記事はこちら

特集

このサイトでは、アクセス状況の把握や広告配信などのためにクッキー(Cookie)を使用しています。オプトアウトを含むクッキーの設定や使用の詳細についてはプライバシーポリシーページをご覧ください。

閉じる