受注は高水準も部品不足でコスト上昇…“明と暗”混在の工作機械業界で問われる地力

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熱気にあふれたMECTの会場(名古屋市港区)

工作機械業界は好況でありながら、もどかしい状況が続いている。国内外の受注が高水準を維持しており、今後の成長持続を見据えて生産能力の増強に乗り出す動きがある。一方で、部品・部材不足による生産への影響が徐々に顕在化し、部材価格や輸送費用の上昇も進む。受注と収益、両面の拡大に向けて難しいかじ取りを強いられている。(編集委員・土井俊、同・村国哲也)

8カ月連続1000億円 “好材料とリスク”混在

「好材料とリスクが混在する状況だ」。日本工作機械工業会(日工会)の稲葉善治会長(ファナック会長)は、現在の工作機械業界が置かれた状況をこう言い表す。

日工会によると9月の工作機械受注額は、前年同月比71・9%増の1445億9600万円で8カ月連続の1000億円超えとなった。1400億円を上回るのは2018年9月以来3年ぶりだ。

ユーザーの最新製品・技術に対する関心も高まっている。20―23日に名古屋市で開かれた工作機械見本市「メカトロテックジャパン(MECT)2021」。国内で2年ぶりのリアルな見本市だったこともあり、来場者の多さに出展各社が驚いた。出展メーカーの広報担当者も「大変な人出で、市況も好調の中、リアルの展示会を楽しみにしていた感じがよく伝わってきた」と手応えを実感する。

市況は今後も「増産対策のための設備需要の高まりが顕著で、半導体製造装置や各種産業機械で活発な設備投資が続く」(稲葉会長)見通し。また、生産現場の自動化やデジタル化への投資など多くの潜在需要も見込まれることから、引き続き高水準の受注環境が期待される。

設備投資を加速 重要市場・中国で増産

メーカー側も積極的な設備投資に踏み切る。中でも中国は、今後の鈍化懸念がくすぶるものの重要市場であることに変わりなく、主要メーカーが増産に動きだしている。

ヤマザキマザックは22年夏の稼働を目指し、遼寧省大連市の工場を3割程度増床中で、月産能力を現在比33%増の240台に引き上げる。寧夏回族自治区銀川市の工場と合わせ、中国での月産能力は同15%増の450台となる。中国市場が強みのツガミは中国・浙江省に新工場を設立し、22年4月に稼働を始める。チャックサイズが6インチや8インチなど中型の自動旋盤を生産し、既存工場含めた生産能力は月間1500台以上となる。FUJIも江蘇省崑山市の工場で21年内をめどに新工場棟2棟を着工する計画だ。

DMG森精機は、中国で25年までに天津工場を拡張するほか、上海近郊にも工場を新設し、合計年間1500台ほどを生産予定。森雅彦社長は「日本やドイツから輸出する分と合わせて2000―2500台は売りたい」と意気込む。同社は、エジプトでも23年秋に新工場を建設・稼働するほか、インドでは30年ころの工場新設も見据える。

受注好調で高稼働が続くDMG森精機の伊賀事業所(三重県伊賀市)

またシチズンマシナリー(長野県御代田町)は、自動旋盤を製造するタイ工場(アユタヤ県)で新棟を22年に建設し、生産能力を現在比5割増の月産350台に増やす。同工場はアジアのほか、欧米や日本を含めた“グローバル供給基地”の位置付け。今後も自動車や電機、医療など幅広い業種で需要が拡大すると見て、生産体制を強化する。

オークマは日本の2工場で、生産能力のボトルネックを解消する設備の更新・追加を続けている。さらに海外では建設を進めていた台湾工場の第2棟と第3棟が完成し、稼働に向けて準備を進めている。急拡大する中国市場の需要に対応する。

部品争奪戦の余波 納期長期化、失注の懸念

一方で高受注に水を差しかねないリスク要因も増大している。中でも影響が徐々に深刻化しているのが部品・部材の逼迫(ひっぱく)だ。足元では半導体やコネクター、鋳物など「不足する部品の種類が増えてきている」(シチズンマシナリーの中島圭一社長)状況だ。

フル稼働が続くシチズンマシナリーのタイ工場

ある工作機械メーカーでは、樹脂部品を生産するベトナムの協力工場で新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生し同工場は閉鎖を余儀なくされた。「少なくとも1カ月は部品が調達できない」と役員は嘆く。

部品・部材不足により、製品の納期が徐々に長期化する傾向にある。DMG森精機は、国内生産の機種で2週間程度の遅れが出ている。日本電産マシンツール(滋賀県栗東市)では、ベアリング、電子部品、樹脂類に関連する部品などが長納期化し、機械の出荷に遅れが出ているものもあるという。微細加工機が主力の碌々産業(東京都港区)も、本来の納期は6―7カ月だが「今は10カ月に延び、売れ筋製品は1年くらいになっている」(海藤満社長)。

顧客の納期優先の観点から、失注に至る懸念もある。既に「顧客が、我々よりも納期の短い他社の機械を選ぶ事が実際に起きている」(工作機械メーカー首脳)という。

また、部品・材料価格や輸送費の上昇ものしかかってきている。例えば鉄鋼では、国内の企業間取引の価格推移を示す月別の国内企業物価指数(日銀調べ、15年平均を100とする)がほぼ1年前から高水準を維持しており、9月実績(速報)は128・4で前年同月より17・8%上昇した。

こうしたコスト高に伴い、製品価格への転嫁の動きも広がっている。オークマは10月受注分から工作機械などの製品と、施工や修理のサービスを含めて3%値上げした。牧野フライス製作所とDMG森精機も22年から上げる方針。現状で値上げを表明していないメーカーでも、「品薄の状態が続けば、見直しを考える必要がある」(ソディックのマーケティング担当者)としている。

工作機械メーカー各社は近年、コスト高の環境にあっても、製造現場の効率化や部品の集中購買などの自助努力により、製品価格を維持してきた。しかし、コスト高が一段と進行。大手工作機械メーカーの営業担当者は「(対応が)限界に来ている」と話す。

メーカー各社は不足しがちな部品・材料を確保しつつ、一層のコスト削減と増産対応を迫られる。吸収しきれない増加コストの転嫁に向けたユーザーとの交渉も避けられない。一方、電気自動車(EV)化や第5世代通信(5G)向けの設備需要、世界的な人手不足解決に向けた自動化や省人化などの提案競争も激化する。メーカー各社は需要増とリスクが混在する状況で総合力を問われることになりそうだ。


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日刊工業新聞2021年10月28日

キーワード
工作機械 日工会

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