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世界シェア7割の強み生かす、オリンパスのAI内視鏡診断支援ソフトの実力

AI新時代 #02

オリンパスは人工知能(AI)内視鏡診断支援ソフトウエアを展開し、大腸の腫瘍の早期発見や医師の治療方針決定を支援している。軟性内視鏡の世界シェアで約7割を握る強みを生かして画像データを収集し、AIを開発した。自社開発に固執せず「外部のリソースも有効的に活用」(田口晶弘最高技術責任者〈CTO〉)することで技術トレンドや市場ニーズに迅速に応えていくとともに、今後は検査ができる医師が不足する新興国にも展開していく。

同社は大腸の内視鏡検査中に病変を自動で判定するAIソフト「エンドブレイン」「エンドエイド」の2シリーズを展開している。AIの判定結果は検査画面に即時に表示されるため、医師は検査しながら確認ができる。

2019年3月にポリープの腫瘍・非腫瘍を判別するエンドブレインを発売。AIは日本医療研究開発機構(AMED)の事業で、昭和大学、名古屋大学、サイバネットシステムの3者が国立がん研究センター中央病院など5施設から約10万枚の画像データの提供を受けて開発した。

21年2月には検出した病変を「切除する必要がないもの(非腫瘍)」「内視鏡治療で切除できる腫瘍」「外科手術が必要な浸潤がん」の三つに分類し、可能性をそれぞれ算出するエンドブレイン・プラスを発売した。臨床経験を積んだ医師でも浸潤がんの判別は難しい場合があるが、同ソフトでは感度91・8%、特異度97・3%という高い精度を実現した。

一方、病変候補を自動で検出するエンドエイドには自社開発のAIを搭載。国内外の複数の病院から約10万枚の画像データの提供を受けて学習させた。AI開発に携わったオリンパスの谷口勝義シニアマネージャーは「感度と特異度の調整に最も苦労した」と振り返る。「感度と特異度はトレードオフ。臨床現場を想定し、医師が見落としやすいものを拾いつつ、病気ではないものを病気と判定して手間をかけないようにした」。

同社のAIソフトの特長について田口CTOは「病変の検知・検出の遅延が少ないことだ」と強調する。医師からは「人よりも早く病変を見つけるため、ストレスや違和感なく検査できると評価を頂いた」(谷口シニアマネージャー)という。

今後、新興国への展開も進める。昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英センター長は「海外では内視鏡診断にたけた医師はまだ少数。日本と大きな差がある。優れた医師の知識を集約したAIソフトはこの差を埋め、大腸がんに苦しむ人を救うゲームチェンジャーになりうる」と力を込める。(石川雅基)

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