ノーベル化学賞、「不斉有機触媒の開発」で米独2氏が受賞のワケ
医薬品合成向け有機触媒を開発
スウェーデン王立科学アカデミーは6日、2021年のノーベル化学賞を独マックスプランク石炭研究所のベンジャミン・リスト所長・教授(53、北海道大学主任研究者)と米プリンストン大学のデビッド・マクミラン教授(53)に授与すると発表した。受賞理由は「不斉有機触媒の開発」。右手と左手のような鏡像関係にある不斉分子を作り分ける触媒を開発した。化成品や医薬品の合成に利用されている。例えばドーピング剤の「ストリキニーネ」の製造効率は7000倍に向上した。
授賞式は12月10日。受賞者は自国でメダルと賞状を受け取る。賞金の1000万スウェーデンクローナ(約1億2600万円)は2氏で等分する。
リスト氏はアミノ酸の「プロリン」が不斉触媒になることを示した。それまでは金属触媒や酵素が触媒研究の中心だったが、プロリンという小さな有機分子でも複雑な不斉分子を作り分けられると示し研究者を驚かせた。
マクミラン氏は「有機触媒」という概念を打ち立てた。有機触媒は、従来の有機合成と同じ手法で触媒自体を合成できる。実際にマクミラン氏が開発した触媒は小さく合成しやすく、医薬品など製造コストを抑えられる。
東京工業大学の豊田真司教授(有機化学)は「安全で簡単に不斉分子を合成できインパクトがあった」と説明する。2000年以降、有機触媒の研究が爆発的に増えたが、2氏は先端を走り続けている。リスト氏は現在北大にも籍を置き、有機触媒と金属触媒などを組み合わせた新しい触媒の確立を目指している。
日刊工業新聞2021年10月7日