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有機―無機複合物質、性能向上へ安定性をどう高める?

構造変化問題

物質の安定性は、材料として利用する上で欠かせない性能だ。どのような条件がそろえば、安定な物質となるのかを調べることは、基礎研究においても重要なテーマとなっている。特に有機物と無機物から構成される「有機―無機複合物質」と呼ばれる物質群では、組成や構造の組み合わせが極めて多岐にわたるため、安定性についての知見が不足している領域も多い。

有機―無機複合物質の評価でしばしば問題となるのは、用いる有機分子の構造によって無機部分の構造が変わってしまうことだ。その結果、得られる複合物質の全体構造が有機分子によって別々となり物質の安定性が有機、無機のどちらの構造に起因するものなのか、判定が難しくなる。

扁平型で比較

そこで我々は、有機分子の持つ電荷密度と形状を工夫すれば、同一の無機構造を持つ複合物質が得られるのではないかと考えた。具体的には、サイズが小さい扁平(へんぺい)型の有機分子に2価の電荷を持たせて複合物質を合成する。これにより、有機分子の構造が変わっても、無機部分の構造は変わらない物質群を得ることに成功した(図)。電荷密度の高い扁平型の分子構造が無機部分を安定化し、同一構造をうまく誘起したためだと考えられる。

有機分子の構造の違いのみに着目して、安定性の違いを比較できるようになったことで、新たに分かったこともある。複合体中の有機分子の構造を系統的に変化させると、複合物質の水に対する安定性が大きく変化するのだ。最も安定な組み合わせでは、空気中の湿気に安定なだけでなく、水中に浸漬しても溶出しにくくなるほど、安定性が向上した。これは、自在な化学修飾が可能な有機分子の特性と、高い電荷密度を持つことにより増強されたクーロン相互作用(電荷同士の引力)の両方が、協奏的に作用した結果だと考えられる。

課題解決に応用

今回の成果は、有機分子の多様性をうまく利用すれば、複合物質の性能を向上させられることを強く示唆している。例えば、有機分子とペロブスカイト型の構造を持つ無機分子の複合物(複合ペロブスカイト)は太陽電池材料として近年盛んに研究されている。しかし、高効率な太陽電池を作製できる反面、水や湿気に対して不安定という弱点がある。今後は得られた知見をこうした課題の解決に応用していき、安定な複合物質の高機能化に取り組んでいきたい。(水曜日に掲載)

物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点 独立研究者 梅山大樹

2015年京都大学大学院博士課程修了、博士(工学)。同年米スタンフォード大学博士研究員。18年NIMS入所、現職。
日刊工業新聞2021年6月30日

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