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逆風下の新体制。三菱電機が肝に銘じるべきことの数々

逆風下の新体制。三菱電機が肝に銘じるべきことの数々

異例の営業畑から就任した三菱電機の漆間啓社長

失われた社会の信頼を取り戻すためには、現場とトップが一体となって社内の多くの仕組みを改めなければならない。

三菱電機の新社長に、漆間啓専務執行役が昇格した。品質問題など相次ぐ不祥事の責任を取って退陣した杉山武史前社長の後、企業風土の刷新に取り組む。同社を見る世間の目は厳しく「創立以来、危急存亡の時」という漆間新社長の思いを全社員が共有する必要がある。

同社では近年、空調機などの品質問題だけでなく、労務問題や情報システムのセキュリティー問題など、相互に関連のないさまざまな不祥事が一気に吹き出している。社風や組織そのものに原因があるということは否定できない。

総合電機は「上意下達」が働きにくい業態である。三菱電機は典型的な事業本部制であり、新トップが強い決意を示したとしても、個々の現場の事情が優先されてしまいがちだ。

杉山前社長は「お客さまとの関係よりも自分たちの論理を優先するような業務の進め方だった」と反省を述べている。社内に数多くある非定型のルールを見直すのは経営層以上に、現場に近い管理職の役割である。

トップは2期4年という不文律を堅持してきた同社にとって、異例の社長交代は社内に大きな衝撃を与えた。今後はトップと現場の結びつきをベースに、変革を進めることが大事だ。社外からトップを招くのではなく、従業員から信頼を得ている手堅い人選をした同社指名委員会の判断を評価したい。

幸いにして、三菱電機のもうひとつの社風は“思い切りの良さ”である。不採算事業を整理し、強い分野に集中し続けることで同社は個々の事業を高シェア・高収益に磨き上げてきた。トップダウン式の買収・合併ではなく、現場の日常の努力が生んだ成果である。次は思い切って、従来のあしき社内慣習を捨て去ってほしい。

信頼回復の道は険しい。「新しい三菱電機グループをつくる」という漆間新社長の決意が、大きな改革の第一歩となることを期待する。

日刊工業新聞2021年7月30日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
三菱電機は29日、鉄道車両向け機器の不正検査が発覚した長崎製作所について、品質管理に関する国際規格「ISO9001」などの認証が一時停止されたと発表した。品質管理を疎かにしていたのだから、当然の措置と言えよう。筆者は記者時代、神戸製鋼所や三菱マテリアル、東レなど、品質に関する不祥事会見に数多く出席してきた。そこでよく聞かれたのが「安全性に問題はない」という釈明だ。しかし、これは安全性だけの問題ではない。不祥事を起こした企業は、適切な価格形成・資源配分を歪めたという自覚はあるのだろうか。その検査体制なら他に発注するという企業もあったはずだ。新たに受注した企業は売上が拡大し、その資金を投資に振り向けることで、より高品質の製品を安く提供できたかもしれない。その意味で、不祥事を起こした企業は、真っ当に商売をしている企業の成長機会を奪ったとも言える。三菱電機に限らず、企業は自らの社会的責任を改めて肝に銘じてほしい。

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