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宇宙望遠鏡の進化に転換期、JAXAが大口径化で空間分解能の向上に挑む

宇宙望遠鏡の進化に転換期、JAXAが大口径化で空間分解能の向上に挑む

コーディエライト製軽量分割鏡(JAXA提供)

進化の転換期

宇宙空間で使用される望遠鏡と聞くと、多くの方々はハッブル宇宙望遠鏡を思い浮かべるのではないだろうか。半面、それ以外の何か具体的な例はなかなか難しいかもしれない。望遠鏡が特殊な工業製品であるゆえんかもしれないが、ハッブル以降も宇宙望遠鏡に関わる技術は継続的に進化している。

現在、宇宙望遠鏡の進化は一つの転換期を迎えている。望遠鏡の主要な性能である空間分解能の向上に必要な大口径化には、分割望遠鏡の技術開発が必須となる。

分割望遠鏡とは、望遠鏡で最も寸法が大きい主鏡を複数枚の鏡で構成し、1枚の反射鏡として機能させる望遠鏡である。地上の望遠鏡では、ケック望遠鏡以降の大型望遠鏡計画では主流の方式であるが、宇宙望遠鏡としては今年打ち上げが予定されているジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が初の事例となる。

地球観測へ適用

大口径の分割望遠鏡の構築において重要なのは、軽量でかつ打ち上げの厳しい振動環境に耐えるために比剛性(剛性と質量の比)を高めつつ、宇宙空間の熱環境で変形しない反射鏡を製造する技術である。わずかな反射鏡の熱変形が観測画像の品質に悪影響を及ぼす。さらにこの複数枚の望遠鏡を、サブミクロン(1万分の1ミリメートル)オーダーで精密に制御する制御部の開発も必須である。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、静止軌道から地球を観測する将来の光学衛星に分割望遠鏡を搭載することを目指して研究を進めている。これは同じく静止軌道にある気象衛星「ひまわり」と同様の即時観測(時間的特長)と10メートル以下の地表面分解能(空間的特長)を両立する光学衛星計画で、防災・減災などの社会課題を解決するための観測網の構築など、従来にない新たな地球観測衛星の利用を生み出すことが期待される衛星計画である。

宇宙利用拡大

これまでJAXAでは、静止光学衛星に適した反射鏡の母材(鏡面を形成するための土台となる構造体)について研究を行い、セラミックスの一種であるコーディエライトを最適な材料として選択した。コーディエライトは精密測定の基準器用材料として採用されている寸法安定性の高い材料である。JAXAでは、過去に大型の低熱膨張定盤を製作しており、その製作過程で反射鏡への応用を着想した。これまでに、0・3メートル級、0・7メートル級の反射鏡を試作し、現在は1・3メートル級の六角形形状の反射鏡を試作している最中である。

大型望遠鏡の技術は今後の新たな地球観測衛星の利用のみならず、宇宙利用の拡大や科学技術の発展に大きく寄与する可能性を秘めている。今後の展開にご注目いただきたい。(月曜日に掲載)

研究開発部門 第二研究ユニット 研究領域主幹 水谷忠均

2005年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程修了。博士(科学)。同研究科助教、Fraunhofer、AIRBUSを経て、10年入社。宇宙機の構造系に関わる研究開発などに従事。
日刊工業新聞2021年6月14日

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