逆風の日本旅館、現代アートと異質な融合で新たな可能性を見出すか

京都・丹波の「すみや亀峰菴」、柳幸典氏監修で大規模リノベーション

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ロビーの改修を手掛けた現代美術作家の柳氏。背後にあるのはワンダリング・ポジション

京都・丹波の日本旅館「すみや亀峰菴」が、現代美術家の柳幸典氏の監修による大規模リノベーションを始めた。第1期プロジェクトとして、柳氏の作品などがあるロビーが4月末に完成。今後はギャラリーとしても活用し、さまざまな作品の展示などアート事業を展開していく。革新と伝統が融合したこのプロジェクトは、日本旅館の新たな可能性を見いだせそうだ。

かやぶき屋根をくぐって玄関に入ると、黒いしっくいの壁にかかる葛飾北斎の代表作「神奈川沖浪裏」が目に飛び込んでくる。しかし、よく見ると黒格子で8分割されている。さらに近づくと紙ではなく砂絵で、虫食いのような細い溝が縦横無尽に走っていることに気づく。

この作品は柳氏による「StudyforJapaneseArtーHokusaiー」。砂絵にアリを放って砂を掘らせ、既存の完成された芸術を解体して再構築した。ロビーには1匹のアリが動く軌跡を、柳氏がグリースペンシルを手にひたすら追いかけた作品「ワンダリング・ポジション」もある。

(左)葛飾北斎の神奈川沖浪裏を再構築した「StudyforJapaneseArtーHokusaiー」/(右)砂絵にアリを放って砂を掘らせた

柳氏は産業遺構を活用した美術館や、国旗や紙幣をアリに掘り崩させる「アントファームシリーズ」で知られ、作品は米ニューヨーク近代美術館や英テート・ギャラリーなどの美術館に収蔵されている。山田智すみや亀峰菴社長が、柳氏の作品のコレクターであった縁でリノベーションにこぎつけた。もともとオーストリアワインを提供するなど和風にとらわれない宿の魅力を追求してきたこともあり、コロナ禍で閉塞(へいそく)感が高まる中「なにか新しいことをやりたかった」(井野毅副社長)としている。

一般的に、旅館と芸術の関わりは深い。由緒ある旅館は芸術家のパトロンを務め、日本画や陶器のコレクションは宿泊者の目を和ませた。最近では、ロビーやレストランで現代アートを展示するパークホテル東京(東京都港区)や、名和晃平氏やヤノベケンジ氏らが手がけた部屋があるホテルアンテルーム京都(京都市南区)などアートをテーマにしたホテルも人気だ。しかし、日本旅館と現代アートの組み合わせは異質であるがゆえにまだ少ない。

すみや亀峰菴で異質な二つをつなぐのは宿近隣に根付く伝統工芸だ。ロビーにあるバーにはカリスマ左官職人の久住章氏による土壁に、アンディ・ウオーホルの「フラワー」をアリに掘り崩させた作品をかけた。カウンターには和紙職人のハタノワタル氏による大理石のような模様の和紙を貼っている。柳氏は「工芸とのコラボがよかった。現代美術は普通白い箱の中で展示するが、漆喰の壁に展示してみたら相性が良かった」と説明する。

バーカウンターには左官と和紙の技を生かした

第2期工事では柳氏が手掛けた「犬島精錬所美術館」(岡山市東区)における鉄の回廊をイメージさせる特別宿泊室を設ける予定。観光庁によると日本旅館の客室稼働率はこの5年ほど4割以下で推移、20年は25%にまで落ち込んだ。人気旅館の稼働率は高いが、それでも先行きは不透明だ。「若い人や外国人、アート好きの人に泊まってもらいたい」(山田社長)と新たな顧客の発掘を狙う。

ロビーはギャラリー風に改装された

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