“長巻き”トイレットペーパー、コロナ禍で需要伸長の理由
販売店の置き場面積や物流面の二酸化炭素(CO2)排出も削減―。トイレットペーパーで、1巻きの長さが従来比1・5―3倍の「長巻き」タイプの需要が伸びている。日本製紙は2020年度の販売額が前年度比約3割増え、4月から販売をこれら長尺ロールに特化した。コロナ禍の巣ごもり需要や脱炭素の動きが追い風となっており、王子ホールディングス(HD)、大王製紙などを含めてさらに広がりをみせそうだ。(編集委員・山中久仁昭)
スペース削減
日本製紙は「クリネックス」「スコッティ」のトイレットロール12巻き入りの生産をやめて、長尺タイプにシフトした。通常1巻きはシングル約50メートル、2枚重ね約25メートルだが、1・5倍、2倍、3倍の各タイプをそろえる。
同じ1巻きでも、高密度に紙を巻いているためコンパクトだ。通常、きつく巻くと紙は中心部ほど固くなるが、特許技術で均一な柔らかさを保ったという。
同社は家庭用長尺タイプを1996年に投入。12巻き分の長さを8巻き入りで実現した。ただ、消費者の目には「トイレットペーパーは12巻き入り直方体」が定着し、長尺ものへの認知はあまり進まなかった。
コロナ禍で状況は変わった。20年春からの在宅勤務などで、家庭のトイレ使用回数で増加。交換頻度や買いに行く回数を減らせる長尺タイプは、静かな人気を呼んだ。一方、通常タイプより体積が小さいため、小売店の売り場スペースの削減につながっている。
四方に良い
最も効果をあげているのが物流面。かねて家庭紙はかさばるのに質量がなく、単価も低く「空気を運ぶようなもの」と言われてきた。長尺ロールであれば一度に大量に運べ輸送回数を減らせるためドライバーの高齢化、人員不足の中で効率化に直結する。輸送にかかるCO2排出は従来品より3倍巻きで最大4割削減できるとのデータもある。同社は「消費者、流通、メーカー、地球の四方に良い」と自信を深めている。
競合の王子HDは、20年度の長尺ロールの売上高が前年度に比べ約20%増えた。20年には長尺ロールをメーンに生産する江戸川工場(東京都江戸川区)を開設。秋には、2倍の長さを巻いても柔らさを維持した「ネピアプレミアムソフト2倍巻きトイレットロール」2種を追加投入した。
大王製紙も販売を伸ばしている。14年に2倍巻きの「エリエール イーナ」を全国で発売した。1巻きが長いため「たっぷり使えるトイレットペーパー」の合言葉で家庭向けに訴求を続ける。
気になるのが価格。価格は紙の長さにほぼ比例するため、いずれのメーカーも容易に「価格もコンパクト」とはいかないようだ。