自動車メーカー以外で「EV」ビジネスに君臨しそうな日本企業
電気自動車(EV)への異業種参入が相次ぐ。国内勢はプラットフォーム(車台)などを足がかりに商機をうかがう。新興勢力は部品産業に大きな影響を与えそうだ。新興勢力から部品発注の打診があれば「相手次第だが、すぐ受ける」とある自動車部品メーカーの幹部は話す。「顧客網の築き方を変える必要がある」と危機感をにじませつつ、「新しいチャンスになり得る」と産業構造の変化を前向きに捉える。
日本電産はモーターなどを一体化したEV駆動用トラクションモーターシステムの開発と生産体制の増強に注力するほか、EV用プラットフォーム事業への参入も明らかにしている。車の「走る・曲がる・止まる」に関連する製品を幅広く手がけており、これらを組み合わせる。バッテリーシステムなどは他社と協業する。顧客はプラットフォームを購入してボディーやシートなどを載せれば完成車として販売できるようになるといい、EV時代をけん引する構え。
帝人は豪州のスタートアップのアプライドEV(ビクトリア州)と、低速EVのプロトタイプを共同開発した。環境への関心が高まる中、自動車の燃費向上などに向け、「軽量化へのニーズは高い」(鈴木純社長)と見る。低速EVの開発においても、強みとするポリカーボネート樹脂や複合材料に関する知見を生かしている。熱のマネジメントや吸音性に関する技術開発も進める考えだ。
出光興産はタジマモーターコーポレーション(東京都中野区)の関連会社に少額出資し、両社で超小型EVの開発に乗り出した。既存の自動車ではカバーできないペーパードライバーや高齢者らの新たな市場を掘り起こす。出光興産はこの超小型EV2台を北海道製油所(北海道苫小牧市)の構内車両として導入。寒冷地におけるEVの有効性や課題を検証する。
EVそのものやプラットフォーム以外の動向で注目されるのがソニーだ。ソニーは電動化や自動運転といったモビリティーの進化に関心が高い。家電・IT見本市「CES2020」で披露したEV「VISION―S」は、20年12月に試作車両を完成させた。
車載用センサーの拡大を目指すソニーだが、VISION―Sには臨場感の高い音響システムや第5世代通信(5G)への接続機能などセンサー以外の技術も盛り込んだ。エンターテインメントに強いソニーにとっては、移動時間の過ごし方の変化も見逃せない商機だ。21日には英通信大手ボーダフォン・グループの独法人ボーダフォン・ジャーマニーと、5Gを活用した走行試験をドイツで始めたと発表した。
IHSマークイットジャパンの西本真敏オートモーティブプリンシパルリサーチアナリストは、EVの新興勢力は次のように大別できる。まず、プラットフォーマーを中心に経済圏を形成するタイプ。中国・百度(バイドゥ)などが該当する。企画や開発に特化した「ファブレス」や、生産のみ手がける「受託生産」など特定の工程に特化したタイプもいる。それぞれ、新興メーカーの中国蔚来汽車(NIO)と米カヌー、世界最大の電子機器製造受託サービス(EMS)台湾・鴻海精密工業の攻勢が目立つ。
部品点数が少ないEVでも、事業として軌道に乗せるには巨額の投資や量産技術の確立が不可欠だ。しかし、こうした新興勢力の台頭で「差別化戦略が多様化し、EV事業のハードルは低くなっている」(西本氏)。米アップルや鴻海はスマートフォンで確立した開発や生産をすみ分ける「水平分業」をEVで再現するとみられている。EV新興勢力は「垂直統合」で競争力を維持してきた自動車産業を揺さぶっている。