EVで異業種参入相次ぐ、本命アップルは今度こそ「クルマ」を変えるか

垂直統合→水平分業で自動車産業揺さぶる

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アップル創業者のスティーブ・ジョブズも自動車開発を目指していた

電気自動車(EV)への異業種参入が相次でいる。1月には米アップルがEV参入に向け、複数の自動車メーカーと交渉していることが明らかになった。中国では百度(バイドゥ)、滴滴出行(ディディ)などが現地自動車大手との提携やEVの共同開発を発表。台湾の鴻海精密工業もEVプラットフォームを開発するなど、自動車メーカーとの提携を急速に広げている。背景には自動車産業を取り巻く環境変化がある。新興勢力は既存の産業構造に風穴を開けるかもしれない。

アップルのEV参入の可能性について、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「新しい産業やテクノロジーカンパニーが入ることは自動車産業に将来性があるということであり、お客さまにとって選択肢の幅が広がることになる」と歓迎する。一方、自動車は40年ともされる商品サイクルの中で過酷な条件でも使用され、安定して機能を維持することで信頼を得てきた。豊田会長は「車をつくることは技術力があればできるが、つくった後に40年のいろいろな変化に対応する覚悟を持っていただきたい」と強調する。

日産自動車の内田誠社長は2月の会見で、アップルから打診があったか問われ、「各分野で優れた知見や経験を持つ企業が、パートナーシップやコラボレーションを活用する選択は十分に出てくると思う」と述べつつ、明確な回答は避けた。ボルボ・カー・ジャパン(東京都港区)のマーティン・パーソン社長は「ハイテク企業は事業展開が早く、同じペースで変革していかなければ恐竜のように死に絶えてしまう」と警戒心を強める。

新興勢力は部品産業にも大きな影響を与えそうだ。新興勢力から部品発注の打診があれば「相手次第だが、すぐ受ける」とある自動車部品メーカーの幹部は話す。「顧客網の築き方を変える必要がある」と危機感をにじませつつ、「新しいチャンスになり得る」と産業構造の変化を前向きに捉える。

EVへの異業種参入が相次ぐ背景に「四つの『脱』がある」と話すのは、IHSマークイットジャパンの西本真敏オートモーティブプリンシパルリサーチアナリストだ。まず、世界的な温室効果ガス排出削減の潮流で「脱・内燃機関」が進む。二つ目が「脱・成長主義」。伝統的な自動車メーカーは、規模拡大でコストを下げ、利益を確保するというビジネスモデルで生き残ってきた。しかし、電動化や自動運転など開発コストが膨らむ中で、「不採算部門を大胆に切り捨て、専用ブランドの創出やバッテリーの内製化、専業化などEV事業への集中化が目立っている」(西本氏)。

温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」。ガソリン車の新車販売禁止ありきの政策も進むが、自工会の豊田会長は「選択肢を自ら狭め、日本の強みを失いかねない」とし、日本独自の道筋を目指すべきだと訴える。

例えば水素由来の新燃料と、日本の強みとなる高効率エンジンとモーターの複合技術を組み合わせることで「大幅な二酸化炭素(CO2)低減という新しい世界がみえてくる」という。また脱炭素実現に向け「企業の研究開発や設備投資への税額控除」(同)などが必要だろう。

「脱・自動車社会」が進む

一方で、「脱・自動車社会」が進む可能性が高い。これまでは経済成長に比例して自動車産業も伸長したが、大気汚染など都市化に伴う課題の解決が今や最優先事項だ。最後に「脱・自動車製造業」。MaaS(統合型移動サービス)では、大量生産・大量消費を志向してきた自動車メーカーの枠に留まらず、新たな移動サービスが台頭する。

自動車産業をめぐる四つの「脱」に加え、EVはガソリン車と比べて部品点数が少ないという構造上の特徴も参入障壁を下げている。

西本氏によれば、EVの新興勢力は次のように大別できる。まず、プラットフォーマーを中心に経済圏を形成するタイプ。バイドゥなどが該当する。企画や開発に特化した「ファブレス」や、生産のみ手がける「受託生産」など特定の工程に特化したタイプもいる。それぞれ、新興メーカーの中国蔚来汽車(NIO)と米カヌー、鴻海の攻勢が目立つ。

部品点数が少ないEVでも、事業として軌道に乗せるには巨額の投資や量産技術の確立が不可欠だ。しかし、こうした新興勢力の台頭で「差別化戦略が多様化し、EV事業のハードルは低くなっている」(西本氏)。アップルや鴻海はスマートフォンで確立した開発や生産をすみ分ける「水平分業」をEVで再現するとみられている。EV新興勢力は「垂直統合」で競争力を維持してきた自動車産業を揺さぶっている。

日刊工業新聞2021年4月23日の記事を編集

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