COP21迫る。日本の優れた高効率火力発電を生かせるか
山口宇部パワー、経産相に環境影響評価方法書提出
大阪ガスとJパワー、宇部興産が出資する山口宇部パワー(山口県宇部市)は10日、同市で計画する大型石炭火力発電所「西沖の山発電所」について、経済産業相に環境影響評価方法書を提出した。出力60万キロワット級の超々臨界圧(USC)石炭火力発電2基の建設を計画。1号機は2023年夏、2号機は25年夏の稼働を予定する。
方法書の説明会は25日に宇部市内で開く。縦覧は12月10日まで、意見書の提出は同24日まで。同火力は計画段階環境配慮書の段階で環境相から「現段階において是認しがたい」との意見が経済産業相に出されていた。
経済産業省は次世代火力発電の技術開発を急ぐ。6月にまとめた2030年度の望ましい電源構成(エネルギーミックス)案で石炭、液化天然ガス(LNG)火力を引き続き主要電源と位置づけた。30年度までの温室効果ガス削減目標(13年度比26%削減)も決まり、同ガスの排出が多い石炭火力の高効率化が喫緊の課題。一方、環境省は相次ぐ石炭火力建設計画に警戒感を強める。経産省は次世代技術の実用化を当初目標より前倒しして、長期的にエネルギー安定供給と環境負荷低減を両立させたい考えだ。
経産省は次世代火力発電技術の開発ロードマップを7月中にも策定する。電力会社や発電設備メーカー、大学などを集めた「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会」発足から1カ月足らずで取りまとめる駆け足ぶりだ。その目的は一にも二にも、次世代技術の実用化前倒しにある。そこには当然、二酸化炭素(CO2)回収貯留・利用技術も含まれる。
懸案の石炭火力の次世代技術は先進超々臨界圧(A―USC)、石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)を想定する。特にIGFCのCO2排出量は現行技術比で約3割削減できるため、30年度の温室効果ガス削減目標達成に向けて是が非でも早期に実用化したいところ。
ただ従来のエネルギー基本計画で設定したIGFCの実用化時期は40年前後。それを可能な限り前倒しするのがロードマップ策定の大きな狙いの一つだ。
技術選定、要素技術開発、実証事業という実用化ステップを複数技術で同時並行させて無駄な時間を省いたり、同一拠点でIGCCとIGFCの実証を連続して行ったりする案を検討している。また、従来は実証から商用導入まで3―5年の空白期間が生じていたが、それを短縮する方策も模索中だ。
ガスタービンやコンバインドサイクルなどはLNG火力発電との共通技術であり、経産省はロードマップで技術開発を“交通整理”してリソースの最適化を図る。
環境省が憂慮する非効率な石炭火力発電所の新設に対しても規制強化に乗り出す。相対的に発電効率の悪い小規模石炭火力建設を抑制するため、省エネルギー法に基づく設備基準の厳格化などの検討を月内にも始める。
高効率な石炭火力の早期実用化はインフラ輸出の観点でも意義深い。燃料が安価で調達しやすい石炭火力は新興国などで確実な需要が予想される。一方で、米国はCO2回収貯留設備のない石炭火力について国内新設を抑制し、他国にも同様の措置を求めている。
先進国と新興国の対立の妥協点として、日本の高効率石炭火力に白羽の矢が立つ場面が今後多くなりそうだ。
Jパワーなどによる山口県宇部市の石炭火力発電所建設計画に対し、望月義夫環境相が「是認しがたい」と12日に意見書を出したのは、電力業界に二酸化炭素(CO2)排出量削減のための自主的な枠組みづくりを促すものだ。
環境影響評価法では出力11万2500キロワット以上の火力発電所設置に関し、事業者が計画段階で提出する環境配慮書について、環境相は経済産業相からの照会を受けて意見できる仕組み。法的な拘束力はなく、事業者に環境配慮を徹底させるための“手続き”的な色彩が濃い。
政府は6月初め、年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第21回締約国会議(COP21)に向け、30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で26%削減する新たな目標案を取りまとめたばかり。30年度の望ましいエネルギーミックス案で石炭火力の割合は「26%程度」とされたが、足元は30%。
石炭火力発電所の建設計画は数多く、今後も環境配慮書の提出が続く見通し。電力業界による自主的な枠組みづくりが進まなければ、ふたたび意見書で“待った”をかけられることになる。
方法書の説明会は25日に宇部市内で開く。縦覧は12月10日まで、意見書の提出は同24日まで。同火力は計画段階環境配慮書の段階で環境相から「現段階において是認しがたい」との意見が経済産業相に出されていた。
経産省、次世代火力の開発急ぐ
日刊工業新聞2015年6月29日付
経済産業省は次世代火力発電の技術開発を急ぐ。6月にまとめた2030年度の望ましい電源構成(エネルギーミックス)案で石炭、液化天然ガス(LNG)火力を引き続き主要電源と位置づけた。30年度までの温室効果ガス削減目標(13年度比26%削減)も決まり、同ガスの排出が多い石炭火力の高効率化が喫緊の課題。一方、環境省は相次ぐ石炭火力建設計画に警戒感を強める。経産省は次世代技術の実用化を当初目標より前倒しして、長期的にエネルギー安定供給と環境負荷低減を両立させたい考えだ。
経産省は次世代火力発電技術の開発ロードマップを7月中にも策定する。電力会社や発電設備メーカー、大学などを集めた「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会」発足から1カ月足らずで取りまとめる駆け足ぶりだ。その目的は一にも二にも、次世代技術の実用化前倒しにある。そこには当然、二酸化炭素(CO2)回収貯留・利用技術も含まれる。
懸案の石炭火力の次世代技術は先進超々臨界圧(A―USC)、石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)を想定する。特にIGFCのCO2排出量は現行技術比で約3割削減できるため、30年度の温室効果ガス削減目標達成に向けて是が非でも早期に実用化したいところ。
ただ従来のエネルギー基本計画で設定したIGFCの実用化時期は40年前後。それを可能な限り前倒しするのがロードマップ策定の大きな狙いの一つだ。
技術選定、要素技術開発、実証事業という実用化ステップを複数技術で同時並行させて無駄な時間を省いたり、同一拠点でIGCCとIGFCの実証を連続して行ったりする案を検討している。また、従来は実証から商用導入まで3―5年の空白期間が生じていたが、それを短縮する方策も模索中だ。
ガスタービンやコンバインドサイクルなどはLNG火力発電との共通技術であり、経産省はロードマップで技術開発を“交通整理”してリソースの最適化を図る。
環境省が憂慮する非効率な石炭火力発電所の新設に対しても規制強化に乗り出す。相対的に発電効率の悪い小規模石炭火力建設を抑制するため、省エネルギー法に基づく設備基準の厳格化などの検討を月内にも始める。
高効率な石炭火力の早期実用化はインフラ輸出の観点でも意義深い。燃料が安価で調達しやすい石炭火力は新興国などで確実な需要が予想される。一方で、米国はCO2回収貯留設備のない石炭火力について国内新設を抑制し、他国にも同様の措置を求めている。
先進国と新興国の対立の妥協点として、日本の高効率石炭火力に白羽の矢が立つ場面が今後多くなりそうだ。
環境省、“自主”促す
Jパワーなどによる山口県宇部市の石炭火力発電所建設計画に対し、望月義夫環境相が「是認しがたい」と12日に意見書を出したのは、電力業界に二酸化炭素(CO2)排出量削減のための自主的な枠組みづくりを促すものだ。
環境影響評価法では出力11万2500キロワット以上の火力発電所設置に関し、事業者が計画段階で提出する環境配慮書について、環境相は経済産業相からの照会を受けて意見できる仕組み。法的な拘束力はなく、事業者に環境配慮を徹底させるための“手続き”的な色彩が濃い。
政府は6月初め、年末にパリで開かれる国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第21回締約国会議(COP21)に向け、30年度の温室効果ガス排出量を13年度比で26%削減する新たな目標案を取りまとめたばかり。30年度の望ましいエネルギーミックス案で石炭火力の割合は「26%程度」とされたが、足元は30%。
石炭火力発電所の建設計画は数多く、今後も環境配慮書の提出が続く見通し。電力業界による自主的な枠組みづくりが進まなければ、ふたたび意見書で“待った”をかけられることになる。
日刊工業新聞2015年11月11日2面