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経営課題に急浮上「サーキュラーエコノミー」、日本企業に危機感

限られた資源の有効活用に知恵を絞って産業を興す「サーキュラーエコノミー(循環経済)」が経営課題として急浮上してきた。欧州から世界へと広がりを見せており、2日にはビジネスリーダーが循環経済をめぐって話し合う国際会議が開かれた。温室効果ガスの排出をゼロにする「脱炭素」に続き、日本企業は循環経済への移行も迫られる。(取材=編集委員・松木喬)

2日、政財界のリーダーが集うダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)と日本の環境省が連携し、循環経済ラウンドテーブル会合をオンライン開催した。3日までの会期中、WEFのボルゲ・ブレンデ総裁や三菱ケミカルの和賀昌之社長らが循環経済をテーマに討議した。WEFは循環経済の浸透を目的に世界各地で会合を開いている。

循環経済をめぐる動きが慌ただしくなっている。1月には経団連と環境省が循環経済の推進で連携することで合意。また同月、同省と経済産業省は合同で循環経済に移行する企業を投資家が評価する指針をまとめた。

背景にあるのが危機感だ。小泉進次郎環境相は、「循環経済の形で発信をしなければ世界に届かない」と訴える。日本では、リサイクルができると環境的に優等生だが、海外の評価軸は循環経済に移っており、日本企業は乗り遅れると埋没する。

大量生産から脱却

循環経済は2015年末、欧州連合(EU)が新政策「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を打ち出したことで注目されるようになった。埋め立て処分量縮小など環境に関連した政策でありながら200万人の雇用と6000億ユーロ(約77兆円)の経済価値創出も掲げたことで成長戦略として認識されたためだ。

循環経済の概念はリサイクルにとどまらず製品長寿命化も含む。一つの製品が長く使われるほど資源の廃棄が減るからだ。そのため保守・修理業が循環経済を支える。シェアリング(共同所有)も重要な要素。例えば休日しか運転しない自動車は資源としてみると“放置”されている時間が長いが、カーシェアリングによって自動車の稼働が増えれば資源が有効活用される。保守・修理とシェアリングはITを活用できる分野であり循環経済はデジタルとの親和性が高い。EUは環境とデジタル化を両立させて新産業や雇用を生み出す。

2月19日、都内のイベントに登壇した東京大学の梅田靖教授はEUの循環経済を「経済の仕組みを変える政策に見える」と表現した。これまでは商品を多く売る企業が評価され、廃棄物が発生してもリサイクルをすれば大量生産も許容された。EUは大量販売から脱却し、保守・修理のような価値提供型に経済を転換させようとしており「製造側を変える」とも指摘する。

「EUは経済の仕組みを変えようとしてる」と指摘する梅田教授(ロフトワーク提供)

イベントではブリヂストンが価値提供型事業の事例を紹介した。同社はすり減った素材を貼り直してタイヤを再利用するサービスを手がける。保守もセットにして再利用の回数を増やし、走行データと突き合わせて燃費改善なども助言することで顧客に新たな価値を提供している。定額制となっており「新型コロナ下でも利益率が落ちていない」(ブリヂストンの稲継明宏Gサステナビリティ推進部長)と手応えを語る。資源を長持ちさせることで、タイヤ販売だけに依存しないモデルになった。

海外では家電などで同様の事業が登場している。脱炭素やESG(環境・社会・企業統治)のように欧州発の政策は世界に伝播(でんぱ)する。価値提供を重視する循環経済もアジアに普及すると想定し「日本企業は準備が必要だ」(梅田教授)と提言する。

すり減った素材を貼り直してタイヤを再利用。保守もセットにした定額サービスを展開(ブリヂストン提供)

ただし収益化は難しい。リサイクル品は売れなければ資源は循環せず、経済価値を生まない。資源の節約を環境貢献にとどめた発想から抜け出し、資源を経済原理で循環させるモデルを模索する時が来た。

国内でも胎動

日本にも循環経済を受け入れる兆候がある。コンサルティング大手のアクセンチュア(東京都港区)は、東京都内と横浜市内のオフィスで紙カップの提供をやめ、繰り返し使えるプラスチック製リユースカップを配備した。従業員は飲料サーバーの脇にあるリユースカップを手に取ってコーヒーなどを注ぐ。使用後、収容箱に入れると清掃業者が回収し、外部で洗浄後、同社に戻ってきて再利用する。

紙カップは1回の使用で廃棄していたが、リユースカップは長くて5年間も使用できている。12年の導入から490万個の紙カップの廃棄を回避できた。同社総務部の谷村春香さんは「環境への取り組みをアピールできる。社員一人ひとりが参加でき、行動を変えるきっかけになる」と利点を語る。洗浄は社会福祉法人きょうされん(東京都中野区)が担っており、障がい者雇用という経済・社会価値も生んでいる。

アクセンチュアは休憩室などにリユースカップを配備(アクセンチュア提供)

リユースカップを提唱してきたNPO法人地球・人間環境フォーラム(東京都台東区)の天野路子さんによると「大量の廃棄物に悩んでいる企業から問い合わせがある」という。適切に処理すれば問題はないが、廃棄物の発生自体を減らす価値が認められたからだ。同フォーラムはリユースカップを普及させようと2月1日から3週間、カップを貸し出す実証をした。アクセンチュアはカップを自社所有するが、中小企業や在宅勤務で出勤者が少ない企業はレンタル型が導入しやすいと想定したからだ。

地方でも循環経済は可能だ。NISSHAとNECソリューションイノベータ(東京都江東区)は、20年末―21年2月中旬、沖縄県読谷村の10店舗と連携してリユース容器のシェアリングを実証した。利用者は飲食店で食品を購入して職場で食べ、帰宅時に容器を返却場所に置く。容器はまとめて洗浄後、飲食店に戻す。

利用者や店舗からは好意的な声が多く寄せられたという。使い捨て容器を減らせる価値を共有できたからだ。飲食店には容器の仕入れ費を圧縮できる経済的価値も期待できる。さらに近隣施設に容器洗浄を依頼することで地域経済にも貢献する。NISSHAなどは22年にも全国展開する予定だ。地球・人間環境フォーラムの中畝幸雄さんは「顔の見える範囲で資源を循環させると価値も地域で回る」と話す。EUが提唱するように循環経済に移行すると、日本各地に富の循環が生まれる。

日刊工業新聞2021年3月2日の記事を一部修正
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「ものづくりからコトづくりへ」というフレーズを聞いたことあると思います。価値提供型がコトづくりです。リサイクル素材でできたノベリティをもらった経験もあると思います。ノベリティではなく、売りモノにするにはどうしたら良いのか。リサイクル品が高いというのなら、リユースビジネス、メンテナンスと稼ぐ方法を考えると、自然と資源循環の輪が小さくなります。使用済み商品を資源として輸出すると、資源に紐付いた経済価値も海外へ流出します。中畝さんが言うように顔が見える範囲で資源を回せば、途切れることなく価値も近くで発生すると思います。

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