人気広がる「オーディオブック」。市場創造を後押しする一冊の児童文学

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オトバンク・上田渉会長が座右の書を語る

「聞き入る文化を創る」―。緑内障で失明し、好きな読書ができなくなった祖父の存在をきっかけに声優らが読み上げる本の音声を楽しむ「オーディオブック」を提供するオトバンクを2004年に創業した。目が不自由な人にサービスを届けるには、その周りの人たちにとって当たり前の選択肢にしなければいけない。それまでほとんどなかった“本を聞く”市場を作り、文化にするゴールは遠い。その果てしなさを考えるとき、ミヒャエル・エンデ著の児童文学『モモ』に登場する道路清掃作業員のベッポの言葉を思い出す。

「いつも次の一歩のことだけを考える。すると気づいた時には全部終わっとる。これが大事なんだ」。長く続く道路を掃除していく時の心持ちを主人公のモモに伝えるこの言葉にやる気を奮い立たせられている。

オトバンクの上田渉会長

モモを初めて読んだのは小学生のころ。図書室に入り浸って児童文学などを読みあさり、エンデの作品も好きだった自分に母が買ってくれた。「時間どろぼう」と戦う女の子の物語に当時はぼんやり時間の大切さを考えたと思う。

ただ、エンデが物語に盛り込んだモチーフに惹きつけられたのか、人生の節目に読み返す座右の書になった。

創業から16年。出版各社に足しげく通い、書籍のオーディオブック化を認めてもらう作業を一つ一つ地道に積み上げ、オーディオブックサービスの会員数は160万人を突破した。とはいえ、文化にするというゴールへは道半ば。だからこれからもベッポの言葉を思い出すし、モモを読み返したくなると思う。

そのときに会いたいと思うのはベッポか、モモか。もしかしたら灰色の男たちかもしれない。時間をだまし取る悪役だが、彼らが時間をだまし取るときの説明のロジックは時短術のようでそこに学ぶべきこともある。

『道をひらく』(松下幸之助著)も大切な本。自分の考えを深めるため、オーディオブックでこれまでに何度も聞き返している。

【余滴/聞き入る文化】

オトバンクは17年にモモをオーディオブック化した。上田会長は「大人と子どもの感想は違うと思うので子を持つ親が子どもと一緒に聞き、感想を言い合うと面白いと思う」と薦める。読書の代替ではなく、オーディオブックならではの楽しみ方の提案も「聞き入る文化」を創造する上で大切になる。(取材=葭本隆太)

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日刊工業新聞2021年2月8日

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葭本隆太
デジタルメディア局DX編集部
ニュースイッチ編集長

音声メディアでは新しいSNS「Clubhouse(クラブハウス)」が話題沸騰中です。オーディオブックは2015年ころから普及元年が来ると言われ続けておりますが、なかなかブレイクというところまではきていません。音声メディアの注目度向上を追い風に今年こそブレイクの年となるでしょうか。

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