飛躍間近の「聴く読書」、コロナ禍は追い風?向かい風?

連載・音の時代がやってくる【番外編#01】

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オトバンクのオーディオブックサービスの会員数は拡大を続けている

プロの声優などが読み上げた本の音声を楽しむ「オーディオブック」を手がけるオトバンク(東京都文京区)が、出版社42社と「オーディオブックフェスティバル2020」を展開している。オーディオブックを割安に購入できる企画で、新型コロナウイルス感染症が収束しない「読書の秋」においてオンラインで本と出会う場を生活者に提供する。

同社のオーディオブックサービス「audiobook.jp(オーディオブック・ドット・ジェイピー)」の会員数は、2019年9月に100万人に達し、それから1年後のことし10月には160万人を超えるなど拡大の勢いは止まらない。オトバンクの久保田裕也社長にフェスティバル開催の思いや、コロナ禍に伴う生活者の行動変容がオーディオブック市場に与えている影響、今後の展望を聞いた。(聞き手・葭本隆太)

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オーディオブックフェスティバル2020:参加出版社42社がおススメする約450件のオーディオブック作品が最大50%引きで購入できる。出版社によるおすすめコメントも紹介する。開催は9日まで。

コロナ禍だからこそ本に触れられる機会を

―フェスティバル開催の背景を教えてください。
 とても本好きな社歴10年の女性社員の発案がきっかけです。(新型コロナの影響で今年は)東京・神田神保町で毎年開かれる「神保町ブックフェスティバル」や「古本まつり」が中止になりました。その中で、彼女は本に触れられる機会を少しでも増やしたいという思いを持っていました。世の中に対して後ろ向きになりやすい今こそ、本は支えになるという思いがあって、オフラインでできないのであれば、(オンラインサービスで)間接的に本を取り扱っている我々がやろうと。オーディオブックは本に触れる機会を増やせるサービスと思っていますから。10月頭の社内オンラインミーティングで彼女がやると言い出して、周りがそれに引っ張られる形で企画になりました。

―発案から開催まで1ヶ月もない中で、42社もの出版社の賛同を得ました。
 (出版社の協力は)想定以上にポジティブな反応をいただきました。参加するにしても社内の調整事項はたくさんあるでしょうし。我々は正直、駄目なら駄目で諦めようと思って声をかけたので、出版社の協力には恐縮しきりです。そうした(積極的な協力を得た)ことも踏まえると、言い出したのは弊社の社員ですが、結果的には出版社の皆さんと一緒に作り上げた本のお祭りになったと思っています。

―反響はいかがですか。
 集客も販売も好調です。お得に手に入るタイミングですから、これまで体験したことない人はぜひ体験してほしいと思っています。ただ、個人的にはそれよりも出版各社からコメントをいただいており、それをぜひ読んで欲しいです。書店と出版社の関係には長い歴史があり、出版社は書店を大切にしています。だからこそ、(書店に)ポップが立ったり、作家さんがメッセージを寄せたりします。我々はまだ創業15年くらいで書店に比べると歴史が浅い。その中で、わずかな準備期間ながらコメントを寄せてくれるのがとても嬉しかったです。

オトバンクの久保田社長

―その背景にはオーディオブックビジネスに対する出版社の期待や関心の高さがあるのでしょうか。
 (関心や期待は)この1年で高まってきました。作品によって波はありますが、オーディオブック単体でも売れるものは売れます。何より大きいのが、既刊本でもオーディオブック化すると、紙の本の実売が上がるケースがあります。そのファクトが各社とも10冊、20冊、30冊と蓄積されてきたことで、出版社から『この本はオーディオブック化できるか』といった相談が増えました。

一方、同じ電子化でも電子書籍にするのと、オーディオブックにするのは違います。テキストではない形に変換することにやはり関係者は不安を抱きます。その中で、我々はスタジオを持って10年以上も制作の実績を積み、(高いクオリティーなどで)信頼を得てきました。だからこそ、任せてもらえる関係ができていると思います。

視聴トレンドが変化しない理由

―新型コロナの影響で在宅勤務が増えるなど生活者の行動変容が起きています。この変化がオーディオブック市場に与えている影響はありますか。
 音声コンテンツが(コロナ禍で注目された)「おうちエンタメ」の選択肢になったというプラスの影響はあると思います。例えば、(ラジオが聞ける無料アプリの)「ラジコ」はちょうどコロナ禍となる今年の春ころから利用者が伸びたと聞きます。これはもともとラジオは文化として根付いており、コロナ禍をきっかけに改めて聞くようになった人が多かったのだと思います。加えて、「stand.fm(スタンドエフエム)」や「Radiotalk(ラジオトーク)」「voicy(ボイシー)」などの新しい音声コンテンツが多数出てきている影響か、ラジオ聴取者ではなく、これまでは音声コンテンツに親しんでいなかった新しいユーザーが増えていると感じます。

オーディオブック市場をみると多少の追い風かなと思います。劇的に伸びたということはないですけどね。

―オーディオブックの利用は通勤・通学時間などに聞く「ながら消費」が中心と伺います。在宅勤務が増えて通勤・通学時間がなくなると、マイナスな影響も出てきそうです。
 コロナ前後を比べると、総視聴時間は増えており、視聴トレンドに変化はありません。(通勤・通学時間にあたる)朝と夕方とそれ以降にトラフィックが増え、明け方の2-3時に落ちます。習慣と生活スタイルは密接につながっているとは思うのですが、(オーディオブックの利用については)切り分けられているような気もします。

―なぜ切り分けが起きるのでしょうか。
 一度、習慣化されると抜けにくいのかもしれません。新しい音声コンテンツは大体10分前後で消費するものが多く、ラジオもリスナーに意見を聞くと、番組の最後まで聞いていない方も多いように感じます。それらに比べてオーディオブックは消費のハードルは高く、短い作品でも20分くらいです。最初は強烈に筋トレさせるようなものですが、逆に(一定の筋トレが行われ、その良さを体験すると)そうそう簡単にはやめられないのだろうと思います。

―オーディオブックを文化として根付かせるための今後の活動を教えてください。
 最新刊など(のオーディオブック作品)をクオリティーはおざなりにせずに、できる限り早くお客さんに届ける世界を目指します。一方で、究極の方法は仲間を増やすことだと思います。働く仲間やオーディオブック関係者もそうですが、(音声メディア)全体です。同じ音声メディア同士だから、ラジオやポッドキャストなどと競合すると言われると違和感があります。音声メディア自体、まだみなが利用するような媒体ではないわけですから。その中でいがみ合ってどうするのかと。(音声コンテンツ市場を盛り上げるために音声コンテンツを扱う)どんな会社とも仕事がしたいと思っています。

―実際に足下ではラジオ番組を「audiobook.jp」で配信するなどラジオ局との協業が増えていますね。
 ラジオは個人的に好きですし、やはりクオリティーが高いと思います。オーディオブック市場が伸びてラジオ市場がしぼむことはないと思います。我々が連携することで幸せがあるなら連携したいですし、音声コンテンツ市場全体でみれば、こういった動きが広がることが大事だと思っています。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

オーディオブック市場が拡大している理由としては合間時間の消費しやすさの注目度の高まりや、目によるコンテンツ消費の疲れなどが指摘されます。その中で久保田社長は音声の「中途半端さ」の価値に言及していました。曰くテクノロジーの進化によりあらゆる情報が見えたり、便利になってきたりしたことで、逆に人は不便さがあったり、想像が必要だったりするコンテンツを求めると。実感値として妙に納得してしまいました。

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