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三井不や三菱地所に野村不も。不動産業界が挑む「MaaS」事業の勝算

三井不や三菱地所に野村不も。不動産業界が挑む「MaaS」事業の勝算

1つのアプリでシェア自動車やタクシーなどを予約・決済できる(三井不動産)

2021年は不動産各社がMaaS(統合型移動サービス)の取り組みを本格発進する年になりそうだ。三井不動産はバスやタクシーなど複数の交通手段を一つのアプリケーション(応用ソフト)で利用できるサービスの実証実験を推進中。野村不動産はベンチャーを通じて、1月中に宅配を試行的に始める。自社で手がけるマンションや商業施設などの利用者に移動の便を提供し、自社物件の価値向上や街のにぎわい創出につなげる。(取材=大城麻木乃)

マンション住民、選べる交通手段

「不動産の“移動産化”を実現する」―。三井不動産の須永尚ビジネスイノベーション推進部長は20年12月、都内で開いたMaaSに関する説明会でこう宣言した。

同社はフィンランド発ベンチャーのMaaSプラットフォーム「Whim(ウィム)」を使い、1月末まで千葉県・柏の葉、3月末まで東京都内の日本橋と豊洲で、MaaSの実証実験を行う。利用対象者は自社グループで手がける賃貸マンションの居住者だ。

例えば、柏の葉では月額2000円を支払うと、20%上乗せされた2400円分のクレジットがもらえ、この分だけバス、タクシー、カーシェア、シェア自転車の中から使いたい交通手段を利用できる。従来、交通機関ごとにアプリを導入して予約・決済が必要だったが、一つのアプリで済む。

まずマンションと商業施設、マンションとオフィスなど限られたエリアを往復する小規模なMaaSのコミュニティーを形成。徐々に商業施設やホテルなど対象施設を広げ、将来的には豊洲と日本橋などMaaSのコミュニティー間を移動できる構想を描く。

コロナ禍によるテレワークの浸透で、ワーケーションで利用するホテルや自宅マンションが“書斎”に姿を変えた。気分や手がけるプロジェクト次第で、今日は自宅、明日はホテルなど働く場を変えられる中、「MaaSでアセット間の移動を支援したい」(須永部長)という。

野村不動産はデリバリーが得意のベンチャー、エニキャリ(東京都千代田区)と組み、1月中に宅配を試す。消費者が野村不の商業施設「ジェムズ」のサイトを訪れると、ジェムズに入居する複数の飲食店の食事メニューを一括で注文できる仕組みだ。夫は和食、妻は洋食など家族やグループ内で異なるニーズに対応できる。

宅配の送料は1回分で済み、消費者は各店舗に支払う分を節約できる。店舗側も1店舗で宅配業者へ支払う送料を、複数店舗で割った金額に抑えられる。まず「ジェムズ広尾クロス」(東京都渋谷区)で始め、順次、他のジェムズにも広げる。新型コロナで飲食業界は苦戦を強いられる中、「新しい取り組みで飲食店を支援したい」(広報)。

三菱地所は住宅系会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」会員向けに、地域限定でシャトルバスを相乗りするサービスの事業化を検討中。MaaSベンチャーのニアミー(東京都中央区)と連携し、人工知能(AI)で複数人の輸送に最も効率的なルートを選んで送迎するサービスの提供を模索する。

20年11月に「ニアミータウン」と名付けて事業化を見据えた実証実験を都内で実施。当初は2月15日まで実験を行う予定だったが、「想定以上に利用者が多く、20年末で実験を打ち切った」(広報)という。

シャトルバス相乗りサービス(三菱地所)

実験段階では無料だったが、AIによる効率的なルート選択で、通常のタクシーよりも低価格なサービス提供を想定。コロナで不特定多数の人が利用する公共交通機関を避け、ドアツードアで移動できるシャトルバスはニーズがあると見て事業化を探る。

ボーダーレス化

不動産各社はMaaSで自社のビルや商業施設などへのアクセスが向上すれば、施設の利用者が増え、街が活気づき、結果的にその土地や不動産の価値が向上する好循環を描く。気になるのはトヨタ自動車といったモビリティーを本業とする企業との違いだ。トヨタも初のMaaS専用の電気自動車(EV)「eパレット」の運行管理システムを昨年12月に公開。開発のスピードを上げ、20年代前半に国内の複数地域での商用化を目指すと宣言している。

三井不動産は「当社のMaaSは住宅、オフィス、商業施設など不動産を起点に、日常生活圏における近距離移動がターゲット」(広報)と指摘。あくまでも自社の不動産と紐付いた取り組みで、トヨタの取り組みとは異なると強調する。

ただ、トヨタはeパレットを2月に着工予定の実証都市「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)に導入し、街づくりと一体となりMaaSに取り組む方針だ。街づくりは本来、不動産会社が得意な分野。不動産会社がモビリティー領域に近づく一方、モビリティー会社も不動産の領域に近づく。

MaaSはIT企業やベンチャーの参入も多く、業界の垣根がないといわれる。不動産会社のMaaSの取り組みは、ますますビジネスのボーダーレス化を印象づける。

日刊工業新聞2021年1月12日

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