日本は原発技術で海外を支援できるか
日本原電がガザフスタンと覚書。次世代炉にも期待
日本原子力発電(東京都千代田区)と丸紅傘下の原子力関連事業会社、丸紅ユティリティ・サービス(同)は28日、カザフスタンの原子力発電所建設に対する協力で、実施主体の国営企業「カズアトムプロム」と覚書を交わしたと発表した。建設計画の策定や資金調達に関する助言、原子力分野の専門家や技術者の育成、広報活動に関するノウハウの提供などで協力する。
日本原子力発電(東京都千代田区)の村松衛社長は、日刊工業新聞のインタビューで、新興国などで急増する原子力発電所建設事業への本格的な参入を目指す意向を示した。日本初の商業用原発を含む自前の原発の建設や運転、廃炉に取り組んできた経験を生かし、安全対策などに貢献することで収益を伸ばす狙いだ。国内では電力各社が今後手がける老朽原発の廃炉作業を、事業計画づくりなどで支援する方針を明らかにした。6月末の就任を受けて取材に応じた。
海外事業ではすでにカザフスタンやベトナム、トルコで原発導入の可能性を探る「プレ企業化調査」に協力している。今後、具体的な導入計画をまとめる段階に入るのを受けて引き続き、コンサルティング業務やプラントの運用管理に対する支援業務などの受託を目指す考えを示した。
老朽原発の廃炉作業では今後、電力各社が詳しい事業計画を策定するのをにらみ、当面はこれにかかわる行政手続きなどを支援していく考えを表明。日本の商業用原発で初となる東海原発(茨城県東海村)の廃炉に取り組む中で「行政当局の規制づくりに協力してきた」経験も生かし、廃炉支援事業を原子力発電事業に続く収益の柱に育てる方針をあらためて示した。
2030年ごろの実用化を目指す次世代原子炉の一つ「高温ガス炉」が注目されている。原理的には炉心溶融や水素爆発が起きない安全な原子炉として、政府は研究開発を推進する方針を示している。950度Cと高温の熱が作り出せるため、発電と同時に水素製造などに利用できる点も期待される。実用化の戦略を策定する産学官の協議会が、4月中をめどに発足する。産官学が戦略を共有することで、研究開発が加速しそうだ。
高温ガス炉は、燃料の保護方法や冷却手段から既存の軽水炉に比べて安全性が高いとされる。直径0・9ミリメートルの球状の燃料は耐熱温度1600度C超のセラミックスで覆われ、それを耐熱温度2500度Cの黒鉛の構造材に収める。
東京電力福島第一原子力発電所の事故のように冷却手段が失われても、黒鉛製の構造材が熱を吸収し、圧力容器の外に自然に放熱する。燃料温度は1600度Cに至らず、炉心溶融しないという。
核反応で生まれる熱を取り出す冷却材には、水ではなくヘリウムを使う。化学反応しにくい流体で水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。原子炉内に水蒸気や空気が入った場合も黒煙の表面が酸化するだけで、安全性は損なわれないという。
また、ヘリウムは高温でも安定しており、950度Cの熱が作り出せる。高温の熱はガスタービンを回して発電すると同時に、水素製造や地域暖房などに利用できる。熱利用率は最大80%で、軽水炉の約33%を大きく上回る。大量の水を使わないため、沿岸部だけでなく内陸に建設できる利点もある。
セラミックスで被覆した燃料は傷みにくく、長く使える。金属で燃料を被覆する軽水炉に比べ、使用済み燃料は約4分の1で済む。ただ、燃料を再処理する場合はセラミックスの被覆層を取り除く工程がいる。日本原子力研究開発機構(原子力機構)によると、機械的に被覆層を割る手法を確立しているが、実証が必要という。
発電量は4分の1
また、原子炉を大きくすると、冷却手段を失った際に熱を圧力容器の外に逃がしきれず、炉心の温度が上昇する危険がある。このため、実用炉の規模は最大で熱出力60万キロワット。発電量ベースで30万キロワットと、軽水炉の3分の1から4分の1程度にとどまる。
東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに存在感が増した。原子力はベースロード電源として安全性の追求が強調され、高温ガス炉固有の安全性が注目を集めた。14年4月に閣議決定したエネルギー基本計画には、「安全性の高度化に貢献する原子力技術」として研究開発の推進が明記された。水素製造などの多様な熱利用が見込まれる点も記載された。文部科学省の15年度予算には研究開発費13億円が盛り込まれ、前年度に比べて倍増している。
産学官の協議会はこうした方針を受けて発足。文科省と原子力機構が事務局を務め、経済産業省、大学、原子力プラント、自動車、鉄鋼のメーカーなど20機関程度が参加する予定。高温ガス炉の利用用途や海外展開などの実用化像、研究開発の工程、各機関の役割などを検討し、年内に取りまとめる。
ベトナム、トルコでも「プレ企業化調査」に協力
日刊工業新聞2015年7月11日付
日本原子力発電(東京都千代田区)の村松衛社長は、日刊工業新聞のインタビューで、新興国などで急増する原子力発電所建設事業への本格的な参入を目指す意向を示した。日本初の商業用原発を含む自前の原発の建設や運転、廃炉に取り組んできた経験を生かし、安全対策などに貢献することで収益を伸ばす狙いだ。国内では電力各社が今後手がける老朽原発の廃炉作業を、事業計画づくりなどで支援する方針を明らかにした。6月末の就任を受けて取材に応じた。
海外事業ではすでにカザフスタンやベトナム、トルコで原発導入の可能性を探る「プレ企業化調査」に協力している。今後、具体的な導入計画をまとめる段階に入るのを受けて引き続き、コンサルティング業務やプラントの運用管理に対する支援業務などの受託を目指す考えを示した。
老朽原発の廃炉作業では今後、電力各社が詳しい事業計画を策定するのをにらみ、当面はこれにかかわる行政手続きなどを支援していく考えを表明。日本の商業用原発で初となる東海原発(茨城県東海村)の廃炉に取り組む中で「行政当局の規制づくりに協力してきた」経験も生かし、廃炉支援事業を原子力発電事業に続く収益の柱に育てる方針をあらためて示した。
次世代「高温ガス炉」でも新興国注目
日刊工業新聞2015年4月10日付「深層断面」より
2030年ごろの実用化を目指す次世代原子炉の一つ「高温ガス炉」が注目されている。原理的には炉心溶融や水素爆発が起きない安全な原子炉として、政府は研究開発を推進する方針を示している。950度Cと高温の熱が作り出せるため、発電と同時に水素製造などに利用できる点も期待される。実用化の戦略を策定する産学官の協議会が、4月中をめどに発足する。産官学が戦略を共有することで、研究開発が加速しそうだ。
熱利用率80%、水素爆発せず
高温ガス炉は、燃料の保護方法や冷却手段から既存の軽水炉に比べて安全性が高いとされる。直径0・9ミリメートルの球状の燃料は耐熱温度1600度C超のセラミックスで覆われ、それを耐熱温度2500度Cの黒鉛の構造材に収める。
東京電力福島第一原子力発電所の事故のように冷却手段が失われても、黒鉛製の構造材が熱を吸収し、圧力容器の外に自然に放熱する。燃料温度は1600度Cに至らず、炉心溶融しないという。
核反応で生まれる熱を取り出す冷却材には、水ではなくヘリウムを使う。化学反応しにくい流体で水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。原子炉内に水蒸気や空気が入った場合も黒煙の表面が酸化するだけで、安全性は損なわれないという。
また、ヘリウムは高温でも安定しており、950度Cの熱が作り出せる。高温の熱はガスタービンを回して発電すると同時に、水素製造や地域暖房などに利用できる。熱利用率は最大80%で、軽水炉の約33%を大きく上回る。大量の水を使わないため、沿岸部だけでなく内陸に建設できる利点もある。
セラミックスで被覆した燃料は傷みにくく、長く使える。金属で燃料を被覆する軽水炉に比べ、使用済み燃料は約4分の1で済む。ただ、燃料を再処理する場合はセラミックスの被覆層を取り除く工程がいる。日本原子力研究開発機構(原子力機構)によると、機械的に被覆層を割る手法を確立しているが、実証が必要という。
発電量は4分の1
また、原子炉を大きくすると、冷却手段を失った際に熱を圧力容器の外に逃がしきれず、炉心の温度が上昇する危険がある。このため、実用炉の規模は最大で熱出力60万キロワット。発電量ベースで30万キロワットと、軽水炉の3分の1から4分の1程度にとどまる。
東京電力福島第一原子力発電所の事故をきっかけに存在感が増した。原子力はベースロード電源として安全性の追求が強調され、高温ガス炉固有の安全性が注目を集めた。14年4月に閣議決定したエネルギー基本計画には、「安全性の高度化に貢献する原子力技術」として研究開発の推進が明記された。水素製造などの多様な熱利用が見込まれる点も記載された。文部科学省の15年度予算には研究開発費13億円が盛り込まれ、前年度に比べて倍増している。
産学官の協議会はこうした方針を受けて発足。文科省と原子力機構が事務局を務め、経済産業省、大学、原子力プラント、自動車、鉄鋼のメーカーなど20機関程度が参加する予定。高温ガス炉の利用用途や海外展開などの実用化像、研究開発の工程、各機関の役割などを検討し、年内に取りまとめる。
日刊工業新聞2015年10月29日 3面