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事前予約で5.8億円の注文受けたカメラEC「Peak Design」

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)「お客さんを幸せにするために」を当たり前に追求

カメラ好きの不満を解消する製品を相次いでリリース


 現在「Peak Design」では、カメラをバッグやベルトに固定するためのクリップ類の他、ストラップやバッグなどの販売を行っている。いずれも見た目は地味だが、カメラを日常的に利用する人のかゆいところに手が届く工夫が盛り込まれている。それが人気の理由だ。

 まずは「Peak Design」が最初に名を挙げることになった「CAPTURE」を見てみよう。通常、カメラには長めのストラップを着けて、首に掛けて前に垂らすのが一般的。このスタイルならフリーハンドで動くことができるし、撮影した対象物があれば即座にカメラを構えることができる。

 しかし、このやり方は疲労やトラブルの原因にもなりやすい。カメラをぶらぶらさせながら動くのは邪魔に感じるし、激しい運動や、突然動いたりしたときには、人や障害物に衝突してしまう危険もある。また、人通りの激しい道中を歩いていると、カメラが盗難に遭う心配もあるのだ。

 そこで、この「CAPUTURE」は、ベルトやストラップ、バッグにカメラをがっちり固定。歩いたり走ったりはもちろん、自転車に乗っていてもすぐにアクセスできる状態で携帯できるようにした。

 撮影したいときにも、さっと撮影することができるのでシャッターチャンスを逃すこともない。利用者からは、全て金属でできていて頑丈な作りになっていること、誤って外れることがない、という点も高く評価されているようだ。

 製品の価格は59.95ドル(約7150円)以上と、決して安いものではない。しかし、カメラ好きの人たちがトラブルなく、便利に使えるように考え抜かれた製品だからこそ、幅広い人気を得ているのだろう。

 また、2015年からは旅する写真家のTrey Ratcliff氏から「カメラマンのためのバッグを作って欲しい」と依頼を受けて作成した「The Everyday Messenger」も販売するようになった。

 カメラを使わないときには敷きクッションとして使える折り紙式の仕切を採用、カメラはすぐにアクセス可能な位置に収納でき、頻繁に取り出さないアクセサリを入れるポケットや三脚、パソコン用のポケットなど、1つひとつの機能は地味ながら写真家やカメラ好きが使いたい、と思える機能を搭載。「KickStarter」史上最高額となる総額486万ドル(約5億8000万円)の支援を受けるヒットとなった。

 「私は旅行写真家として、カメラを持ち運ぶ要件をすべて満たしているようなバッグをこれまで見たことがなかった。でもバッグというのは、撮影を行っていく上で最も重要なツールなんです」(Trey Ratcliff氏)

 「Peak Design」には登山、サーフィン、スノースポーツ、モータースポーツ、結婚式やポートレート撮影など行っている一流のカメラマンなどのプロチームがいる。彼らが実際にプロトタイプを使用し、フィードバックとテストを繰り返すことで製品開発の援助を行っているという。

 創業者のディリング氏を含め、サイトのスタッフが実際にカメラを頻繁に使用し、アイディア出しからテストまでプロの目でチェックできるのが最大の強みだ。

社長が直接電話対応をすることも


 「Peak Design」の顧客対応を評価する声も多い。ユーザーの1人が購入した「Peak Design」の商品についてデザイン上の欠陥があることに気付いた。彼はその点について言及したレビューをAmazonに掲載し、「Peak Design」にもレビューを見て欲しいと連絡したという。

 すると「Peak Design」はすぐに対応したいと申し出て、メールは創業者のディリング氏に転送された。そして、ディリング氏が直接彼に謝罪するとともに「お客さんを幸せにするため、良かったら電話でお話ししたい」と提案してきたという。このユーザーは、「まさか創業者自身がエンドユーザーと話すために時間を割くとは」と、驚くとともに強い感動を覚えたそうだ。

 このレビューに対し、「今まで製品を買うか悩んでたけど、優れた顧客サービスを呼んで買うことに決めたよ」という声を寄せる別のユーザーもいた。「お客さんを幸せにするために」という価値観は、この顧客対応のみだけでなく、「Peak Design」の製品の機能からも感じられる。これが徹底しているからこそ、一見すると地味な製品でも本当に利用層が欲しいと思える製品を届けることができているのだろう。

 「お客さんを幸せにするために」とは当たり前の考え方かもしれない。しかし、実際に行動へ移しているECサイトがどれほど有るだろうか。「Peak Design」はこの価値観を貫いたからこそ、いくつもの人気商品を生み出したのだろう
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
カメラ関連とクラウドファンディングは相性が良い気がする。かなりの需要家が存在し、その一部だけが反応してもこの金額になるんだと。デジタルな商品に対しアナログなアクセサリーに目をつけたところがいい。

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