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協働ロボットで製造現場「再構築」へ、ファナックや安川電機の提案力

協働ロボットで製造現場「再構築」へ、ファナックや安川電機の提案力

安川電機の協働ロボット。同社本社の工場で実際に利用する

協働ロボットが製造現場を「再構築」するカギになる。産業用ロボットは自動化や生産性向上を実現する最も有効な手段だが、コストやスペースの制約から、設備のレイアウトを大きく変える必要がある。そこで産ロボメーカーは人とともに作業が可能な協働ロボットを提案。既存設備を利用しながら人の代わりに活用できる。新型コロナウイルス感染対策の「3密」回避や省人化など、生産ラインも変化する環境への対応が求められる。

ファナック/自由度高いライン構築

ファナックは使いやすさと安全性、高信頼性を兼ね備えた協働ロボット「CRXシリーズ」を提供する。2020年6月に量産出荷を開始。受注が好調で22年1月に当初の3倍程度まで生産能力を引き上げる。さらなる生産能力強化や時期の前倒しも視野に入れる。

量産領域では安全柵で囲った産業用ロボットが高い生産性を発揮する。一方、CRXでは柵の設置がなく人間もロボットも利用できる自由度が高いラインを構築できる。山口賢治社長は協働ロボットの提供比率は「まだまだ少ない」としつつも「産業用ロボットと比べるとCRXは少ない費用でシンプルな自動化ができる」と普及に期待する。

ファナックの新協働ロボット「CRXシリーズ」。ロボット操作に不慣れな現場でも活用可能

同社は15年から“緑色の協働ロボット”「CRシリーズ」を展開する。同機は産業用ロボットの延長線上で協働ロボットの作業を実現したい顧客向け。一方、CRXは今までロボットを使ったことのない顧客やロボット導入の敷居を下げるための製品だ。さらに自動車メーカーなどロボットに慣れた顧客からも引き合いがある。顧客への提供を最優先にするが、今後ファナック社内での活用も視野に入れる。「新型コロナで多少の様子見感はあるが、自動化やロボット化の流れは変わっていない」(山口社長)とみる。

安川電機/「自走移動」へ安全確保

安川電機は人協働ロボット「モートマン―HCシリーズ」を展開する。可搬質量が10キログラムと20キログラムの2種類を用意する。ハンドリングや加工機に加工対象物(ワーク)を供給するマシンテンディングのほか、ネジ締め、エアブロー、検査などの作業で活用できる。同社の協働ロボットの特徴の一つが高い防塵・防水対策を施している点。切削油や水を浴びる環境下でも自動化を実現できる。

特にマシンテンディングや食品を含む搬送用途には防滴対応が重要になる。シール構造を導入することでロボット全体で国際電気標準会議(IEC)規格「IP67」に準拠する構造を実現した。また、カメラなどの通信を実現するイーサネットケーブルを内蔵する。

「現在は協働ロボットとして別枠にしているが、重要なのは安全柵フリーということ。これによりロボットが自走する『モバイルロボティクス』が実現できる」と開発の方向性を語るのは、小川昌寛取締役常務執行役員ロボット事業部長。協働ロボットは安全性をロボットに入れ込む設計のため、安全柵がなくても稼働する。柵がないことは移動が可能ということでもある。製造現場は多品種少量生産や変種変量生産などに対応する必要があり、同社では自走するロボットを活用した新たなソリューションの展開を目指す。

三菱電機・川重/工場労働・地方の担い手に

三菱電機も20年5月に提供を開始した同社初の協働ロボット「メルファ・アシスタ」が好調だ。FAシステム事業本部の古谷友明機器事業部長は「国内市場では間違いなく労働人口が減る。自動化をしていきたいという声は多くある」と明かす。新型コロナで外国人労働者を受け入れられない食品や医薬品業界などを中心に反響が多いほか、過疎化が進む地方でも需要がある。「ニーズを見ながら生産を増やしていく。現在は可搬質量が5キログラムの1機種だが、今後この分野はしっかりと取り組む」(古谷部長)と意気込む。

三菱電機の協働ロボットは海外の大手食品メーカーなどからも引き合いがある

川崎重工業は双腕スカラタイプの協働ロボット「duAro(デュアロ)」を展開する。上下ストロークが150ミリメートルで最大可搬質量が片腕2キログラムの「デュアロ1」と、同550ミリメートルで可搬質量が片腕3キログラムの「同2」の二つを提供する。双腕のため、例えばワーク把持とドライバーによるネジ締め作業を行うなど両腕で別々の作業が可能。製品製造におけるサイクルタイム短縮に寄与する。デュアロは基板の組み立てや部品の基板への組み付け、弁当箱の配膳などで活用事例がある。

川重はロボットショールーム「ロボステージ」(東京都港区)への来館客に対し、自動で検温を行うためにデュアロを設置するなど、新たな利用方法を模索している。

DATA/「協働」用途広がり急成長

国際ロボット連盟が2020年10月に発表した「ワールド・ロボティクス・リポート」によると、世界全体で協働ロボットの採用事例は増加傾向にある。19年の設置台数は前年比11%増となり、産業用ロボット設置台数全体(37万3000台)の4.8%を占めた。同年は従来型の産業用ロボットの設置数が減少した一方、協働ロボット市場は勢いを見せた形になった。同比率は17年が2.7%、18年が3.8%で、年々上昇している。

ヤマハ発動機京セラなど協働ロボットに参入するメーカーが増加傾向にあることに加え、人間の隣で安全に作業できるため利用用途も一層広がったことが設置台数増加の要因とみられる。同リポートは「協働ロボット市場は急速に成長しているが、まだ黎明(れいめい)期にある」と指摘する。21年も自動化や省力化ニーズは拡大するため、協働ロボットのさらなる広がりが期待できる。

KEYWORD・協働ロボット

協働ロボットは産業用ロボットの一種。人と協働で作業することを目的としており、リスクアセスメントを行うことで、安全柵レスを実現する。6軸単腕や双腕スカラなどさまざまな種類がある。無人搬送車(AGV)に搭載したタイプもあり、必要に応じて移動も可能。アームを直接手で持って操作する「ダイレクトティーチ機能」を備えるほか、タブレット端末で操作できたり、周辺機器メーカーとの連携を容易にするプラットフォーム(基盤)を提供したりするメーカーもある。

日刊工業新聞2021年1月4日

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