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ハウス食品子会社になる「ココイチ」創業者の思い

食堂業に「執着一切ない」
ハウス食品子会社になる「ココイチ」創業者の思い

名古屋市中区の「宗次ホール」


「笑顔で迎え、心で拍手」


 私は8年前の53歳の時に食堂業を完全に引退した。執着は一切ない。日本一の事業承継の成功事例だと思っている。夫婦で頑張って創業し、店頭公開から二部上場、一部上場までした会社をなぜ、赤の他人に全権委譲できたのか。
 役員たちの人間性がいいからだ。人望が厚く誠実でまじめで信頼できる。そういう役員に恵まれたことが、経営者人生を振り返って一番の幸せだと思う。
 私が代表権を持っている時は、人の意見も聞かない「お山の大将」「裸の王様」でやっていた。その代わり誰よりもまじめにやっていた。自分の身を経営にささげるという気持ちでやり通した。

 今期は厳しい状況とみている。しかし、この時代に値下げもしないで利益をきちんと確保できている。私が在任中の28年間はずっと右肩上がり。バトンタッチして6―7年は右肩上がりがずっと続いた。これについては、奇跡でも起こらないようなことが起きてしまった、というのが実感だ。
 大抵の社長はみんなふらふらしている。何でもっと頑張ってやらないのか。経営者になり代表権を持って社長をやるのであれば、こんなにいい商売はない。
 去年の暮れに「経営の達人」など4部作の日めくり集をつくった。その中の「お客さまを笑顔で迎え、心で拍手」は私が25歳の時につくった標語だ。お客さまとは、社員であり家族であり取引先であり、かかわる人すべてであるととらえている。その人たちのために身をささげ喜んでいただく。うまくいかないわけがない。

「繁盛させたければ、お客の声を聞け」


 朝3時55分に起きて4時5分には打刻する。無理なのは出張がある時など年間15日ぐらい。毎朝1時間以上かけて掃除をする。花も自分のお金で買って植えている。草取りもする。これは社長の仕事だ。
 何がもうかるか、どういう商品がいいか、商品開発をどうするか、時流が何かは二の次。繁盛させたければお客さまの声を聞きなさい。判断に迷ったらお客さまを第一に考えなさい。すぐに答えが出る。夢ではなく目標を持ち続けて追い続けなさい。1年、2年頑張ったら到達しそうな目標であれば頑張れるし、問題が発生してもくじけない。
 経営者であれば年間4380時間以上、働きなさい。365日×12時間だ。体がもたないという人は、1日12時間10分働ければ5日休める。労働基準監督署も文句を言わない。最高で5637時間、1日15―16時間働いた。

音楽は「心の商売」


 クラシックホールを個人で28億円かけてつくった。音響は徹底してこだわっている。クラシック音楽を聴くとやさしくなり心が豊かになる。ある時、記者の人がクラシックホールの経営で商売はおかしいと言った。そこで私が心の商売だと答えたら、それはすばらしい言葉だと活字になった。まさに心の商売であり利益ではない。
 ぜひ、この難局を全社一丸で乗り切っていただきたい。ちょっと景気が上向いても、また、厳しい状況は訪れる。そんな時に、地域に「あなたのような経営者がいてくれて本当にうれしい」と聞こえてくるような経営にしたい。地域が活性化すれば税収は上がる。地域活性化とは、やる気のある事業所がいっぱいになること。それにはまず、自分の会社の活性化だ。
日刊工業新聞 2010年6月22日付の紙面を再編集
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 小さな喫茶店から始まり、国内外に出店するカレーチェーンを築いた宗次徳二氏。今から5年前の日刊工業新聞社主催の講演会で「ここ一番で勝つ経営」と題し、経営に対する考え方やを語っていました。本紙に掲載した当時の講演録を、再掲させていただきます。

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