ドラッグストアトップに押し上げた、ウエルシアHDの“信頼を勝ち取る”差別化戦略

柔軟な発想で新事業への挑戦を続ける

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ウエルシア薬局採用公式インスタグラムより

マツモトキヨシ、ウエルシア、スギ薬局、ココカラファインといった「ドラッグストア」が、すっかり街の風景に馴染んできた。

ドラッグストアの店内に並ぶのは、薬や日用品、化粧品だけではない。入れ歯洗浄剤や大人用おむつなど介護用品、ルームソックスなど季節商品、菓子類やカップ麺、酒類もある。生鮮食品こそないが、日常生活に必要なものの大半はドラッグストアで揃う。

こうした便利さもあり、国内のドラッグストアは、1970年代に登場して以来増え続け、いまや2万店を超えて大型化も進む。なかでもウエルシア薬局などを展開するウエルシアHD(ホールディングス)は、総店舗数2,000超。2020年2月期の売上高は、全国のドラッグストアの総計のおよそ1割にあたる8682億8000万円である。これは業界トップの数字だ。

人口減少・少子高齢化が進むなか、ドラッグストアも、コンビニや百貨店と同様、大量生産・大量消費型のビジネスモデルからの転換を迫られている。だが、巨大チェーンの場合、方向転換は容易ではない。それでもウエルシアHDは、柔軟に新事業への挑戦を続けているようだ。

ウエルシアHDの池野隆光代表取締役会長は、著書『差別化を以て戦わずして勝つ』(評言社MIL新書)において、同社のこれまでの成長の軌跡と、現在進めている多岐にわたる挑戦の数々を記している。急成長を遂げた業界トップのドラッグストアは、どんな未来を描いているのだろうか。

薬剤師のスタッフが調剤以外のカウンセリングも行う

ウエルシアHDは、1997年以降、関東近郊の小規模な薬局が合併を繰り返し、2008年にグローウェルHD(2012年に現社名に改称)として設立された。その後も、各地域の3、4番手クラスの薬局をM&Aによって次々と取り込み、成長していった。多くの企業が寄り集まったゆえの多様性と柔軟性が、ウエルシアHDの強みという。

同社には、(1)調剤、(2)利便性(深夜営業)、(3)カウンセリング、(4)介護の4本柱からなる「ウエルシアモデル」がある。

このうち(3)カウンセリングについていえば、薬剤師や登録販売者、管理栄養士といった資格を有する従業員が、専門知識を生かし、「未病」「予防」「介護」などの観点から、消費者の相談に乗る。それだけではない。ビューティケア商品や健康食品などについても、各々の専門の立場から、きめ細かなアドバイスを行う。

ちなみに書名の「差別化を以て戦わずして勝つ」はウエルシアHDの社訓だが、カウンセリングは、この「差別化」の一環でもある。棚に並ぶ商品は同業他社の店舗と同じであったとしても、薬剤師や管理栄養士をはじめとするプロフェッショナルが相談に乗れることが、違いと優位性になる。

つまり、ウエルシアHDでは、専門知識を備えるスタッフが顧客の悩みを聞き、その人に合ったファンデーションやTPOに沿った化粧品の使い方、患者の体格や体調に合った介護用おむつなどを紹介する。そういったカウンセリング的な接客が、顧客からの信頼につながり、商品購入にも結びつく。

ウエルシアモデルの(4)介護も、信頼と差別化のための大事な要素だ。同社は、薬剤師が自宅を訪れて調剤を行う在宅調剤、自宅療養でのサポートや訪問入浴、介護付き有料老人ホームの運営などを手掛けている。すでに、ドラッグストアの枠をこえ、商品販売に依存しない新たな業態を創造しつつあるともいえそうだ。

地域の「困った」を救うプラットフォームをめざす

ドラッグストアの業態には、地域の健康や生活を支える社会インフラとして大きな可能性が見込まれる。ウエルシアHDのほかにも、例えばスギ薬局は、アイシン精機と組み、交通弱者向けに医療機関やスーパーを結ぶ乗り合い送迎サービスの取り組みを進めている。

その点で、顧客からの信頼を重視するウエルシアモデルは、他社よりも地域密着の戦略と相性がいいのではないだろうか。事実、ウエルシアHDは、「地域の“困った”を救っていく」プラットフォームになることめざしているのだという。

ウエルシアHDの地域密着の戦略の筆頭に挙げられるのが、全国の270店舗ほどに設置されている「ウエルカフェ」だ。

ウエルカフェでは、各地域の特性や住民の嗜好を取り入れながら、各店舗の従業員がさまざまな取り組みを企画する。例えば、健康相談会を開き、住民の健康状態のチェックや体操指導などを行う。大学生や町会議員などが小学生の学習支援をボランティアで行う例もある。

地域住民、とりわけ孤独な高齢者らにとって、気軽に健康相談ができたり、集まって人と触れ合ったりする場所があるということは、それだけで大きな価値があるのは指摘するまでもない。

今後のウエルシアHDには、収益性を担保しつつ、さらなる同業他社や他業態との差別化を、いかにはかるかが問われる。カギとなるのは、やはり、ウエルシアモデルを徹底することではないか。そのためには、新たな創造的な戦略を打ち出すとともに、顧客からの信頼を得られる、専門性とコミュニケーション能力を兼ね備えた従業員の採用と育成が重要になっていくのだろう。(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『差別化を以て戦わずして勝つ』
-誇り高き企業集団ウエルシアの挑戦
池野 隆光 著
評言社(評言社MIL新書)
140p 1,000円(税別)

<情報工場 「読学」のススメ#86>『差別化を以て戦わずして勝つ』(池野 隆光 著)

COMMENT

冨岡 桂子
情報工場

本書によると、ウエルシアHDはM&Aを繰り返す過程で、「大きいほうが小さいほうの真似をする」方針をとっている。すなわち、合併によって新たに加わった従業員を、ウエルシアのやり方に合わせさせるのではなく、積極的に異なる価値観を受け入れるのだという。おそらく、それによって従業員のモチベーションを維持するとともに、固定観念にとらわれない柔軟な発想を生むベースができ上がっているのだろう。ウエルカフェにおいても各店舗の従業員が活発なアイディア出しをしているというが、そうした“創発カルチャー”が醸成されていることが同社の最大の強みなのかもしれない。

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