究極の紙「セルロースナノファイバー」量産へ。製紙各社が見せる本気
補強材・新機能に。サプライヤーとしてのポジションは譲れない
次世代のバイオマス素材、セルロースナノファイバー(CNF)が実用化段階に差し掛かり、製紙業界で量産化に向けた動きが活発になってきた。これまで増粘・消臭といった機能を高める添加剤などの用途が先行したが、最も期待されるのは樹脂・ゴムの補強材(複合材)や、低環境負荷のバイオマスで実現する新機能。紙を極めた木材化学の“たまもの”だけに、サプライヤーとしてのポジションは譲れない。
CNFは木質繊維(パルプ)を処理してナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)まで細かく解きほぐしたもの。セルロースミクロフィブリルと呼ばれる最小単位の繊維素は、直径が髪の毛の1万分の1、3ナノ―4ナノメートルしかない。
鉄鋼に比べ5分の1の低比重(1立方センチメートル当たり1・5グラム)でありながら、同等の曲げ強度と、5―8倍の引っ張り強度を備える。さらに石英ガラス並みに熱変形が小さい。こうした特性が自動車部品などの分野で、新たな複合材として大きな期待を集める。
中越パルプ工業は3月末、川内工場(鹿児島県薩摩川内市)にCNFの量産設備「第1期商業プラント」を建設すると発表した。約12億円を投じて2017年4月に年産能力100トンで稼働する。さらなる需要拡大を見込んだ設備増強も視野に入れている。
中越パルプ工業は13年3月にCNFのサンプル供給を開始。用途開発を加速するため自ら動き、15年1月には出光ライオンコンポジット(東京都台東区)および三幸商会(名古屋市千種区)とともに、ポリオレフィン樹脂に均一分散させることで高分散したポリプロピレン(PP)複合材の開発に成功している。
こうした取り組みが奏功し、3年間で100社以上にCNFのサンプルを供給。「顧客との意見交換を通じ、量産化のめどが立った」(中越パルプ工業管理部)ため16年度の設備投資を決めた。「PPを中心とした樹脂複合化が主用途になる」(同)という。
CNFの製法には九州大学の近藤哲男教授が開発した水中対向衝突法(ACC法)を採用している。ACC法は水の衝突圧でパルプを解きほぐすシンプルな手法で、繊維素が多少絡み合った直径10ナノメートル程度までの解繊になるが、処理過程で油にもなじむ両親媒性を備えるのが特徴。それが樹脂との複合化に生きた格好だ。
王子ホールディングス(HD)は15年11月、化粧品にも使われている安全な薬品であるリン酸による化学処理でCNFを製造する「リン酸エステル化法」を確立し、王子製紙富岡工場(徳島県阿南市)で量産化に向け年産能力40トンの実証生産設備建設に着手した。
今秋にも稼働する。王子HDはこれに並行し、日光ケミカルズ(東京都中央区)と共同で、CNFを化粧品原料にする用途開発も進めている。
また、王子HDは三菱化学と共同で13年3月、CNFの透明連続シート製造に成功した。東雲研究センター(東京都江東区)に専用設備を設置し、薄膜ガラスの代替や電子デバイス向けにサンプル供給している。透明シートは紙のように折り畳むことができ、大型ディスプレーや太陽電池などへの応用も期待されている。
(セルロースナノファイバー液と実証生産設備=日本製紙提供)
日本製紙は13年10月、業界に先駆けて岩国工場(山口県岩国市)に東京大学の磯貝明教授らが開発した触媒「TEMPO」を使って化学処理する年産能力30トンの実証生産設備を導入し、サンプル供給を本格化。
その一方、TEMPO処理によるCNFの酸化した表面に金属イオンや金属のナノ粒子を高密度に付着させられる特徴に注目し、15年10月に自社で抗菌・消臭効果のある銀などの金属イオンを大量に担持させた大人用紙おむつも商品化した。
このため、実証生産設備の余力がなくなり、サンプル供給への影響も懸念される状況になってきたことから、16年度中の量産設備整備を検討している。設備能力を最大で10倍、年産300トン規模まで高める青写真を描く。
立地場所は原料パルプが豊富で拡張余地がある主力拠点の石巻工場(宮城県石巻市)が有力。投資額は100億円近くになる見通しだ。
日本製紙は自社でのCNF実用化以前に200社超にサンプルを提供。だが、「新しい素材だけに複合材としての加工は難しく、さまざまな性状でサンプル提供を繰り返している」(河崎雅行CNF事業推進室長)という。
(文=青柳一弘)
中越パルプ、PP複合材を開発
CNFは木質繊維(パルプ)を処理してナノメートルサイズ(ナノは10億分の1)まで細かく解きほぐしたもの。セルロースミクロフィブリルと呼ばれる最小単位の繊維素は、直径が髪の毛の1万分の1、3ナノ―4ナノメートルしかない。
鉄鋼に比べ5分の1の低比重(1立方センチメートル当たり1・5グラム)でありながら、同等の曲げ強度と、5―8倍の引っ張り強度を備える。さらに石英ガラス並みに熱変形が小さい。こうした特性が自動車部品などの分野で、新たな複合材として大きな期待を集める。
中越パルプ工業は3月末、川内工場(鹿児島県薩摩川内市)にCNFの量産設備「第1期商業プラント」を建設すると発表した。約12億円を投じて2017年4月に年産能力100トンで稼働する。さらなる需要拡大を見込んだ設備増強も視野に入れている。
中越パルプ工業は13年3月にCNFのサンプル供給を開始。用途開発を加速するため自ら動き、15年1月には出光ライオンコンポジット(東京都台東区)および三幸商会(名古屋市千種区)とともに、ポリオレフィン樹脂に均一分散させることで高分散したポリプロピレン(PP)複合材の開発に成功している。
こうした取り組みが奏功し、3年間で100社以上にCNFのサンプルを供給。「顧客との意見交換を通じ、量産化のめどが立った」(中越パルプ工業管理部)ため16年度の設備投資を決めた。「PPを中心とした樹脂複合化が主用途になる」(同)という。
CNFの製法には九州大学の近藤哲男教授が開発した水中対向衝突法(ACC法)を採用している。ACC法は水の衝突圧でパルプを解きほぐすシンプルな手法で、繊維素が多少絡み合った直径10ナノメートル程度までの解繊になるが、処理過程で油にもなじむ両親媒性を備えるのが特徴。それが樹脂との複合化に生きた格好だ。
王子HD、薄膜ガラス代替狙う
王子ホールディングス(HD)は15年11月、化粧品にも使われている安全な薬品であるリン酸による化学処理でCNFを製造する「リン酸エステル化法」を確立し、王子製紙富岡工場(徳島県阿南市)で量産化に向け年産能力40トンの実証生産設備建設に着手した。
今秋にも稼働する。王子HDはこれに並行し、日光ケミカルズ(東京都中央区)と共同で、CNFを化粧品原料にする用途開発も進めている。
また、王子HDは三菱化学と共同で13年3月、CNFの透明連続シート製造に成功した。東雲研究センター(東京都江東区)に専用設備を設置し、薄膜ガラスの代替や電子デバイス向けにサンプル供給している。透明シートは紙のように折り畳むことができ、大型ディスプレーや太陽電池などへの応用も期待されている。
(セルロースナノファイバー液と実証生産設備=日本製紙提供)
日本製紙、紙おむつに利用
日本製紙は13年10月、業界に先駆けて岩国工場(山口県岩国市)に東京大学の磯貝明教授らが開発した触媒「TEMPO」を使って化学処理する年産能力30トンの実証生産設備を導入し、サンプル供給を本格化。
その一方、TEMPO処理によるCNFの酸化した表面に金属イオンや金属のナノ粒子を高密度に付着させられる特徴に注目し、15年10月に自社で抗菌・消臭効果のある銀などの金属イオンを大量に担持させた大人用紙おむつも商品化した。
このため、実証生産設備の余力がなくなり、サンプル供給への影響も懸念される状況になってきたことから、16年度中の量産設備整備を検討している。設備能力を最大で10倍、年産300トン規模まで高める青写真を描く。
立地場所は原料パルプが豊富で拡張余地がある主力拠点の石巻工場(宮城県石巻市)が有力。投資額は100億円近くになる見通しだ。
日本製紙は自社でのCNF実用化以前に200社超にサンプルを提供。だが、「新しい素材だけに複合材としての加工は難しく、さまざまな性状でサンプル提供を繰り返している」(河崎雅行CNF事業推進室長)という。
(文=青柳一弘)
日刊工業新聞2016年5月5日