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職人不足の打破へ、足場レンタル業が着目した「カセツ」

職人不足の打破へ、足場レンタル業が着目した「カセツ」

足場材でオフィスに2階を構築(ロフトワークの台湾支社)

職人不足、ネットで情報発信

工事現場で見かける仮設足場といえば、資材の搬入や塗装などの作業スペースに使われている。足場レンタル業のASNOVA(アスノバ、名古屋市中村区)は、従来の足場の役割にとらわれない発想で業界の存続を模索する。

同社は2013年に設立し、19年12月に現社名へ変更した。新社名に「明日の新たな価値を生み出す場所」という思いを込めたが、そこには業界への危機感がある。上田桂司社長は「老朽施設が増えてリフォーム需要がある。建設市場は伸びるが、常に労働者不足」と頭を抱える。足場を組み立てる職人になる若者が減っており、調べてみると「そもそも足場職人を知らない。無関心が壁だった」(上田社長)と気づいた。高収入を得られる職種であることも認知されておらず、足場職人は就職の選択肢にも入っていなかった。

【「カセツ」サイト】

興味を持ってもらう手段を考えるうち、足場に関連深い「カセツ」という言葉に着目した。「仮設」は試作を繰り返して良い未来に近づけること、「仮説」も将来の物事の検討を意味しており「どちらのカセツも、社会を良くする社会実験の要素を感じた」(同)。

そう整理し、インターネットに「カセツ」をテーマとしたメディアサイトを立ち上げた。ドイツの池に夏限定で登場する仮設の遊び場、コンテナに寺院を仮設した僧侶などの記事を掲載すると、公開半年で閲覧数は5万を超えた。求人雑誌以外の手段で業界を知ってもらえた。

【異業種と交流】

足場材で製作したテーブル。足場の新しい用途を開拓

異業種との出会いもあった。取材に協力したロフトワーク(東京都渋谷区)の台湾支店のオフィスに足場材で2階を構築した。業界外との交流で工事以外での足場の使用法に気づき、「ビジネスが広がる可能性を感じる」(同)と感触を語る。

ただし、メディアサイトだけで満足はしていない。上田社長は「一つにこだわると前に進めない。変化しないと会社は存続しない」と気を引き締める。同社や業界の持続可能性に向けた“足場固め”に余念がない。

日刊工業新聞2020年12月11日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
足場レンタル会社が足場職人を求めているのは、素人的には当然と思ってしまいます。しかしレンタル会社は職人を雇用していません。足場を組み立てる職人がいないとレンタルができないという関係から、ASNOVAが業界に関心を持ってもらうために奮闘しています。一歩下がった位置からなのでメディアサイトといった発想が出てきたと思います。仮設マガジン「POPUP SOCIETY」読んで見て下さい。 また紙面やニュースイッチで取り上げてほしいSDGsテーマも募集しています。

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