紳士服「はるやま」、テレワーク浸透での苦境を「スーツ×健康」で服の常識を変える
新型コロナウイルスは働く環境に大きな変化をもたらした。テレワークなどのオフィスの外での業務が浸透し、これまでスーツを着て仕事に臨んでいた人々は私服で作業をすることも増えてきた。
これにより最もダメージを受けた業界の一つが紳士服だ。需要が低迷したため、業界は大きく揺らぎ、売り上げが急減した。紳士服大手のはるやまホールディングスもその一つ。2021年3月期の連結当期損益が35億円の赤字になるという予想を発表するなど、苦しい状況にある。ウィズコロナ時代におけるビジネスウェア市場の今後について、治山正史社長に聞いた。(聞き手・伊藤快)
我々のゴールの一つとして「おしゃれで健康に生活してもらいたい」というのがあり、スーツだけにこだわっているわけではありません。ただ、我々のビジネスモデルが従来スーツ中心だったので、それを短期間で変革するには相当の努力が必要です。健康というのはどの時代、どの世代でも必要とされる価値です。従来のアイテムに誰もが必要とする価値を付与することで、緩やかでも変革が図れると考えています。
11年の東日本大震災を経験して以来、ビジネスパーソンとそのご家族をおしゃれで健康にすることを軸に、全社一丸で取り組んできました。もうひとつの軸は、スーツは「固定電話」だということです。固定電話は現在、企業くらいにしか置いていないほど数が減りました。一方で携帯電話を含めた電話自体の普及台数は10年、20年前と比べて、何十、何百倍にも増えています。一つの機能しか持たないはずの電話にガラケーやiPhoneなどの圧倒的価値を付与されたものが登場したことで、その市場規模が何十、何百倍にも広まったのです。
これと同様に、スーツにも圧倒的価値を生み出して市場を新たに作っていけば、何十、何百倍に広がっていくはずです。今までどこのビジネスウェアでも実現しなかった圧倒的価値、つまり健康を付与することでマーケットボリュームはどんどん広がる。だからビジネスウェアに対しても全然暗いイメージはなく、まだまだいけるぞと考えています。
―「ストレス対策スーツ」や「i-Shirt」など健康に関する商品や機能性を付与した商品を展開しています。スーツやビジネスウェアと健康というのは一見すると水と油のような関係で、なかなか結び付きません。実際に体験してもらわないとわからないので、この方針にはお客様だけでなく社員からも反対がありました。それでもヒット商品が生まれたり、体験してくれる方が増えて、認知度は上がってきています。しかし、まだまだスーツやビジネスウェアのイメージと健康が結びつかず、アピールを変えないといけないなと感じています。
―ちょうどコロナ禍で健康や抗菌への意識が高まっていて、そのあたりもマッチしてくるのでは?その通りで、お客様たちも健康に注目しています。ただ、健康といっても広義なので、どの分野でどんな商品を出せばお客様が喜ぶかをチョイスしながら、商品をどう伝えていくかがポイントです。それでも追い風になっていますね。
―健康と結びついた製品やスーツとはどういうものですか。1990年にユニクロが発売したフリースが、それまでのセーターやジャンバー、ハーフコートといった冬の服装の選択肢に新たに追加されたように、スーツもカジュアルウェアのような普通の服としての選択肢の中に入ることができれば市場はいくらでも広がります。その時ネクタイをする必要はありませんし、下はTシャツだっていいんです。
―そのような商品を売るために考えていることは?やはりお客様のイメージを変えることです。ハイボールがサントリーのキャンペーンによって「おじさんが飲むもの」から「若者も飲むもの」というイメージになったように、少し時間はかかっても、スーツでも同様のことが起きて浸透させていきたいです。
服というのは自己完結しない商品なんです。食事ではおいしさをいくら伝えても味までは伝わりにくい。しかし服であれば、例えば寒い中で薄着の人を見ると、見ているこっちが寒くなったり、暑いなかで厚着の人を見たらこっちまで暑くなったりする。服はそれぐらい人に影響を与えられるものです。そういった意味ではいろいろなアプローチがあります。
テレワークの浸透によって消費者の服の選び方が変化しているが、スーツと健康という二つの組み合わせを当たり前にすることで、治山社長は今後のスーツ市場の成長に強い期待感を持っていた。
さらに治山社長は、テレワーク時のビデオ会議など画面越しでも自分の姿を見せる際の服装選びに頭を悩ませる人々に向けて、書籍『きちんと楽ちん「テレウェア」』を発刊した。
次回はその「テレウェア」がどのようなものなのか、実物を見せながら解説していく。