「夢ではなくビジネス」、国内宇宙ベンチャーとホリエモン“常識はずれ”の挑戦
新型宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げが象徴する宇宙の商業利用の本格化
日本時間11月16日、米国の民間企業「スペースX」は、新型宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功。翌17日、搭乗した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の野口聡一さんと米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士ら計4人を、無事に国際宇宙ステーション(ISS)に送り届けた。
スペースXは、EVメーカー「テスラ」のトップとしても知られるイーロン・マスク氏が、2002年に創業した宇宙ベンチャーだ。
クルードラゴンと打ち上げロケット「ファルコン9」は、今月13日に、NASAによって初の商用宇宙飛行士輸送システムとして正式に認証されている。宇宙開発は、いまや国家プロジェクトから民間主導へとシフトし、宇宙の商業利用時代が幕を開けたといえる。
航空運輸業の歴史を振り返ると、ライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功したのは1903年だ。それから100年超の間に、多くの民間企業が参入し、ビジネスが発展してきた。
宇宙産業はどうだろう。ソビエト連邦(現ロシア連邦)のユーリイ・ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行は、1961年だ。約60年を経た今日、ようやく民間による宇宙船の運用が開始されたわけだが、さらに40年経った100年後にはどうなっているか。
航空運輸業のように、複数の民間宇宙船メーカーが技術やコストを競い合い、宇宙旅行や宇宙の運輸業が大きなビジネスとして成立している可能性は十分にある。そして、その萌芽は、日本国内にもある。
『堀江貴文と宇宙に挑む民間ベンチャー企業の勇敢な社長たち』(repicbook)は、国内の民間宇宙ベンチャー企業6社を取り上げ、各々の社長が描くビジネスモデルや、これまでの挑戦の歴史を描き出している。著者は『新世代蒸留所からの挑戦状』(repicbook)などの著書がある作家。
ガレージ発ならぬ“風呂場発”。ホリエモンも関わるインターステラテクノロジズ
この本に登場する宇宙ベンチャーの中でも、比較的一般にも知られているのは「インターステラテクノロジズ」ではないだろうか。
同社は、北海道の大樹町を拠点とし、世界一低価格で便利なロケットの打ち上げを目指している。源流は、1990年代の「宇宙作家クラブ」という団体。これは、宇宙関連の取材をしたいフリーライターや漫画家らが、報道機関としての取材権利を得るために立ち上げた組織だ。
あるとき、JAXAの前身である宇宙開発事業団(NASDA)の有志が、上層部に向けて、有人宇宙船の開発の提案をしたのだが、その際、宇宙作家クラブのメンバーに協力を申し込んだという。
結局、提案は時期尚早と却下されたのだが、集まった宇宙作家クラブのメンバーは、「NASDAがやらないなら自分たちでロケットを打ち上げよう」と発奮。素人ながら、ロケットエンジンの開発を開始する。
液体ロケットエンジンの出力性能を推測するための実験は、なんとメンバーの自宅兼仕事場であるアパートの浴室で決行。シリコンバレーではアップルなどがガレージからスタートしたというが、現在日本の民間宇宙開発をリードする同社は、“風呂場”から夢実現への一歩を踏み出したのだ。
その後、メンバーの一人がアニメ会社を通してホリエモンこと堀江貴文さんと出会い、資金面や人脈のサポートを得た。さらに現社長の稲川貴大さんら、ロケットの専門知識を持つ人材も加わったほか、北海道大学と共同でロケットの実用化に挑戦を続ける植松電機代表の植松努さんや、同社のエンジニアらの協力も得る。
北海道に拠点を移した後、2013年にインターステラテクノロジズを設立。2019年、観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」が日本の民間開発のロケットとしては初めて高度100kmを越え、宇宙空間へ到達することに成功した。
インターステラテクノロジズは、従来の10分の1という低価格でのロケット量産を目指している。将来的にロケットは宇宙への“宅配便”のような存在になると考えられ、使いやすさが重要になるからだ。コストを切り詰めるために、部品に民生品を多用するほか、カーボン素材をアルミ合金にかえるなど、ロケット界の常識にとらわれない素材の見直しにも取り組む。
同社は、素人の集まりである「宇宙作家クラブ」という始まり方からして、常識はずれの会社と言っていい。
航空機に関しては“素人”だった自動車メーカーのホンダは、小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」のエンジンを、業界ではご法度だった主翼上に設置して成功した。同じように、インターステラテクノロジズのコスト削減における「常識へのとらわれなさ」は、ロケット業界に革命を起こすかもしれない。
宇宙産業は、自動車に代わり「日本経済の屋台骨」になりうるか
もっとも地球に近いが未知の部分が多い天体「月」に挑む企業もある。小型月面探査機「HAKUTO」で知られるispaceだ。
現在は各方面から総額135億円以上の資金を調達。2040年には、月に1000人が暮らし、年間1万人が訪れるという「ムーンバレー構想」を持つ。そのためにもまずは、月に存在すると考えてられている水資源の発見を目指す。水は水素や酸素として活用できるなど、月面に住むには欠かせないのだ。
2021年にファルコン9を使って月着陸船の月面着陸、23年にローバーによる月面探査を予定しているという。
宇宙産業は、今後、十分に成長が見込まれる。
日本経済の屋台骨である自動車産業は、EV化による部品点数の大幅減少など、縮小の危機も指摘される。半面、宇宙産業は、次なる主力産業になりうるという期待も集める。高品質な工作機械などを得意とするといった、日本の製造業のアドバンテージもある。
宇宙を「夢」や「未知への挑戦」で語る時代は、終わりつつある。「ビジネスとして魅力があるからこそ宇宙に挑む」そんな時代が到来しているのである。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『堀江貴文と宇宙に挑む民間ベンチャー企業の勇敢な社長たち』
すわべしんいち 著
repicbook
160p 1700円(税別)