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《中小企業のM&Aストーリー#02》件数が最も多い調剤薬局から学ぶ

サン薬局を買収したメディカルシステムネットワーク。さまざまな売り手の要望を聞く
《中小企業のM&Aストーリー#02》件数が最も多い調剤薬局から学ぶ

買収により新天地への出店が実現(メディカルシステムネットワークの調剤薬局)


サン薬局代表「いち薬剤師として人生は続いてゆく」


 会社を売却した後の経営者の人生はさまざまだ。新たに別の事業を立ち上げる人もいれば、完全に経営から手を引き、リタイアする社長もいる。そんななか、愛知県で調剤薬局「サン薬局」を経営していた河村泰男の”その後“はユニークだ。河村は自社の売却後、売却先であるメディカルシステムネットワークグループに一社員として入社。現在は薬剤師として活動する。
 
 サン薬局は河村の父親が創業したが、突然病気で亡くなったため、薬剤師だった河村が後を継いだ。2011年10月、28歳の時だ。「今思えば感情的になっていた。家族からは反対されたが、父の思いや従業員への迷惑を考えると前に進むしかなかった」と振り返る。

 経営者になった後も薬剤師として店舗に立ち続けた。継いだ時点では「父親の経営が丼勘定だった」こともあり、サン薬局の借金は2000万―3000万円に膨らんでいた。サン薬局の店舗はどれも利益を出しており、将来は完済も見込めていたが、経営者と薬剤師の二足のわらじを履く生活は、肉体と精神を徐々に疲弊させていった。

 父には申し訳ないが、売却を決断した時は解放された気持ちに

 後を継いで約2年、体に変調を感じる。医師の診断結果は潰瘍性大腸炎。自らの体調不良を機に「このまま続けても将来安泰だろうか」と、迷いを感じるようになった河村は、M&A(合併・買収)仲介業者の門をたたく。売却の条件は「社風が合い、社員の雇用を維持してくれる会社」。その条件を聞いて仲介業者が紹介したのがメディカルシステムネットワークだった。

 売却の決断をした当時について「肉体的精神的に疲れていたし、解放されるという気持ちだった」と語る。「ただ、今でも父には申し訳ないという気持ちがある」と寂しそうに微笑む。

 経営を退いた後は薬剤師実務も一端離れ、今後の人生を見つめ直した。そして半年後、一介の薬剤師として再スタートを切ることを決める。メディカルシステムネットワークの勧誘もあり、グループに属する神奈川県の調剤薬局に就職した。「大手の仕事に興味があった」という河村。一方のメディカルシステムネットワークは「経営の分かる薬剤師は貴重」と河村に期待をかけている。

 「薬局のあるべき姿など仕事に対する悩みは尽きない」と語る河村。今冬には第1子が生まれ、父となる予定だ。経営者としての人生は一段落したが、薬剤師として、父として人生は続いてゆく。
(敬称略)

日刊工業新聞2015年10月22日付金融面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
M&A市場で最も件数が多いとされるのが調剤薬局とか。なるほど、規模拡大が出店戦略に直結するからですね。記事では、M&Aで会社を売却した後の経営者の「その後」にも触れられていました。売却企業に入社して、現在は薬剤師として活躍する河村氏。いろいろな人生、生き方があるのだと、あらためて考えさせられました。

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