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《中小企業のM&Aストーリー#02》件数が最も多い調剤薬局から学ぶ

サン薬局を買収したメディカルシステムネットワーク。さまざまな売り手の要望を聞く
《中小企業のM&Aストーリー#02》件数が最も多い調剤薬局から学ぶ

買収により新天地への出店が実現(メディカルシステムネットワークの調剤薬局)

 日本のM&A(合併・買収)市場で、最も件数が多いと見られる業種が調剤薬局だ。M&A仲介業の日本M&Aセンターが2014年度に手がけた案件を見ても、買い成約169件中13件が調剤薬局。調剤薬局は立地が売り上げや事業成長に大きく関わるため、病院や福祉施設の近辺を押さえることが重要。新天地に出店を考える調剤薬局にとって、自前で店舗を新設するより好立地の既存店を買収した方が効率的だ。そういった業界事情もM&A増加に拍車をかけている。

若い薬剤師集まらず、事業を売却するケース増える


 高齢化により調剤医療費自体は伸びているが、医療費を抑制したい国の意向もあり、調剤報酬自体は引き下げられる傾向。規模で劣る個人経営の調剤薬局は経営を圧迫されている。また、薬学部の6年制移行による薬剤師不足も深刻な課題だ。個人経営の調剤薬局は若い薬剤師を集めにくくなっており、事業売却を決意する大きな理由となっている。

 業界の中で急成長しているのが、メディカルシステムネットワークだ。北海道を出発地とする同社は、関東や関西など他地域への進出戦略としてM&Aを活用。2014年には連結子会社を通じて愛知県のサン薬局を買収した。

 これだけの案件を実現する秘訣(ひけつ)は何か。同社の田中義寛専務は「M&Aは価格も重要だが、それだけではない。うちがフレキシブルな対応をしていることもあるのでは」と推測する。

 緩やかに融和しガバナンスを効かせる

 確かに、売り手となる企業の要望はさまざまだ。会社を手放してリタイアしたいという売り手もいれば、社長として経営に協力したいという売り手、自分は手を引くが息子を役員に入れてほしいという売り手もいる。同社は、その期待に可能な限り応えることで成功件数を増やしているという。

 売り手の希望を聞きすぎると、買収後のガバナンスが不安定になるのではとの見方もできるが、田中専務は「全体ビジョンを示しつつ、緩やかに融和を図っていくことでガバナンスをきかせている」と語る。

  02年9月期に6億円でスタートした同社の売上高は、決算期変更後の15年3月期に755億円まで成長。その大きな原動力がM&Aだ。今後も特に一部地域に集中してM&Aを行う「ドミナント戦略」を軸に成長を目指す方針。25年3月期に売上高3000億円の実現を目指している。

 調剤薬局業界は大手のシェアが1―2%程度で、ドラッグストア業界などに比べても大手の寡占化が進んでいない。メディカルシステムネットワークは他社に先駆けてシェアを獲得するため、今後も積極的なM&A戦略を推進する方針だ。

日刊工業新聞2015年10月22日付金融面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
M&A市場で最も件数が多いとされるのが調剤薬局とか。なるほど、規模拡大が出店戦略に直結するからですね。記事では、M&Aで会社を売却した後の経営者の「その後」にも触れられていました。売却企業に入社して、現在は薬剤師として活躍する河村氏。いろいろな人生、生き方があるのだと、あらためて考えさせられました。

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