教員画像を若い女性にしたら…東工大のオンライン授業で評価を得た手法
大学の教育は各教員に任される面があったが、オンライン化で自己流が危うくなった。東京工業大学は前期の学生アンケートなどで評判が高かった教員が、オンライン授業の手法を紹介するウェブの学内イベントを開いた。「講義の質の向上に向け、好事例共有の気持ちが現場に芽生えている」(益一哉学長)。禍転じて福となるか、大学の教育力は転機を迎えている。
【ズームに一本化】
東工大のオンライン授業はリアルタイム型のテレビ会議システム「ズーム」に一本化。2020年度から1コマ100分に伸ばしたため学生が能動的に動く小問題の提示といった工夫を求めた。例えば講義途中の問いかけ3回に、休憩を重ねた事例が紹介された。3択問題の回答結果をグラフで示し、学生が目にして再び回答が変化する様子を観察した例もあった。
オンラインでも、数式や化学式の板書を重視する教員は少なくない。数学の教員は20分の板書動画の後、学生個々の計算演習の指導をするのに複数の教育補助者を置いた。ズームも1対1なら長時間可能で、丁寧に指導できる。化学構造・反応の式も、板書にあわせて学生が書き写すのが、眠気防止と理解向上でプラスという。

【原理の理解進む】
実験は装置や回路のセット、合成過程など教員の撮影動画を見せて、送った数値データを学生が解析してリポート提出―が1手法。実験の操作や片付けの体験がない点は、教育効果として不十分だ。しかし「時間的に余裕ができたため、データ解析を学生任せにせず一緒にやってみせた。考察に時間をかけ、原理の理解がより進んだ」と担当教員は振り返った。
【正解率高まる】
「惑星の表面温度」という1テーマを2コマで完成させる試行もあった。基礎理論の説明後、複数の仮説と因果関係の推論のリポートを課した。次回にそれらの考察を深めることで、発展的な課題の正解率が高まったという。これは対面授業でも有効なもの。教育手法全体を向上させる機運を象徴するようだ。
学生の孤独感に配慮した小さな工夫も必要だ。ある男性教員はフィルターアプリで、顔を若い女性に置き換えて学生の注意を引いた。教員の課題返却時の励ましメッセージには、学生から予想以上の感激の声が寄せられたという。
好事例の共有は他大学でも、また大学・組織間でも有効とされる。今は教育力アップのチャンスと前向きに捉えられるかどうか。大学改革の成否を占う新たな指標となりそうだ。
