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《中小企業のM&Aストーリー#01》向井珍味堂とヒガシマルの“結婚”

ともに成長軌道へ
《中小企業のM&Aストーリー#01》向井珍味堂とヒガシマルの“結婚”

創業当時の向井珍味堂(左)とヒガシマルの東社長


「結婚に仲人がいるように、M&Aにも仲介者が必要」


 ヒガシマルは即席麺・乾麺のほか、水産養殖用の配合飼料などを手がける食品メーカー。車エビ養殖用の配合飼料ではトップシェアを誇る。同社が成長戦略の柱と位置づけるのがM&A(合併・買収)だ。

 同社は現社長、東紘一郎の祖父が1947年に創業。東の父親の現会長が社長時代に事業を急成長させた。M&Aに取り組み始めたのは現社長の代になってから。きっかけについて東は「私は先代と違い、優れた商品開発はできないと考えたから」と柔らかに笑う。会長は当初M&Aに反対だったというが「これからは中堅・中小企業もM&Aをする時代になる」と確信し、積極的にM&A戦略を進めていった。

 ただ、最初のM&Aはつまずきもあった。1990年代に販売会社をM&Aしたが、直後に簿外債務が発覚したり、送り込んだ役員と元の経営者が対立するなど経営統合がうまくいかなかった。「結婚に仲人がいるように、M&Aにも仲介者が必要」と考えた東は、仲介業者を通じてM&A案件の紹介を受けるようになる。同社が希望するのは加工食品メーカー。本業とシナジー(相乗効果)が出せる企業というのが条件だ。

 くしくも創業が同じ1947年。「一緒にやっていけると確信」

 2013年に大阪の業務用食品メーカーである向井珍味堂と資本・業務提携した。後継者不足に悩んでいた向井珍味堂だったが、高品質な製品や高い生産加工技術は業界でも高く評価されていた。

 東は「当社は大阪に拠点がなく、関西地域の強化という意味でも魅力的だった。従業員もまじめに頑張る社風で、一緒にやっていけると確信した」と振り返る。くしくも両社は同じ1947年の創業。”同い年“の両社の統合は順調に進み、現在は販路協力や調達先共有でシナジーを発揮している。

 強烈なリーダーシップで会社を成長させたワンマンタイプの前社長と違い、東は穏やかな性格だ。相手の立場に立って物を考え、ともに成長を目指すという姿勢は売り手企業から好感され、M&A成功例の増加につながっている。「うちの会社の中心は会長」と父親を立てる東だが、東が手がけたM&Aがヒガシマルを成長させたのは事実だ。

 長らく80億円台だった売上高は2015年3月期に115億円に成長、収益性も向上した。「今後は麺食文化のある東南アジアなど、海外でのM&Aも検討していきたい」と語る東。協働型のリーダーが、ヒガシマルを新たな成長に導いてゆく。
(敬称略)
(文=鳥羽田継之)
日刊工業新聞2015年10月20日/21日金融面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
 独自の技術や製品を持つ企業が後継者難を理由に廃業に追い込まれることは日本にとって大きな損失です。今回の記事で取り上げている友好的M&Aは、事業承継の手段のひとつとして注目されています。なかなか表に出ることのないM&Aをめぐる「ストーリー」。世代交代期を迎えた企業にとってヒントになるのではないでしょうか。  ヒガシマルでは、創業者と現社長の個性の違いにも触れられていました。強烈なリーダーシップで事業を拡大してきた創業者と調和を重視する温厚な2代目-。こうしたケースもよく見聞きするだけにヒガシマルが今後、どんな成長戦略を描くのか注目されます。

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