コロナ禍のエネルギー需給のリスク、技術でどう対応するか
コロナ禍で太陽光発電の普及にブレーキがかかった。太陽光パネルは在庫が十分だったが、日本国内でパネルの施工が遅れた。新エネルギー・産業技術総合開発機構技術戦略研究センター(NEDO―TSC)の仁木栄再生可能エネルギーユニット長は「計画に比べ発電量で2割ほど減っている」と説明する。
同時にテレワークの拡大で電力消費パターンが変わった。従来はオフィスに集中して効率的にエネルギーを使ってきたが、自宅で冷暖房を使うシーンが増えた。矢部彰フェローは「夏や冬には節電を呼びかける必要もある。ピークに対応するために止まっていた火力発電を動かすが、うまくいかなければ広域停電のリスクが増す」と指摘する。
今後、コロナウイルスの再拡大や新規感染症などを考えるとエネルギーの需給構造が大規模かつ急激に変わることが予想される。そこで電力負荷を平準化する発電技術や蓄電技術、家庭の発受電のリアルタイムモニタリング技術が必要になる。規模が大きいため、社会実装まで約10年かかる長期投資になる。仁木再生可能エネルギーユニット長は「歩みを止めずに一歩一歩進めていくことが大切」と説明する。
コロナ禍では温暖化対策の経済影響も明らかになった。世界中で経済活動が縮小し二酸化炭素(CO2)排出量が減ったためだ。矢部フェローは「4―5月の経済活動自粛で世界では約2割排出量が減った」と説明する。観光産業など、さまざまな業界が苦境に追い込まれた現状で約2割抑制にすぎない。日本はパリ協定を受け2050年に80%削減を目標とする。既存技術でこれを実現するには、多大な経済影響が見込まれる。三菱総合研究所はコロナ禍の世界の経済損失を800兆から1300兆円と試算している。
NEDOの石塚博昭理事長は「経済と環境は両立する。技術開発の先には新しいマーケットが開ける。我々はその価値を定量的に示していく」という。コロナ禍で日本と世界のさまざまな課題が顕在化した。イノベーションが求められている。