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ネクタイの幅つめ専門サイト。その価値は金銭にあらず

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)「Skinny Fatties」は優れたeコマースのはじめ方
ネクタイの幅つめ専門サイト。その価値は金銭にあらず

(出典:http://dot429.com/articles/2637-joshua-adam-brueckner)


ネットを通して世界中に向けて行われるサービス


 Skinny Fattiesの「ネクタイの幅詰め」サービスの利用方法はごくシンプルなものだ。まず最初に希望の仕上がりのネクタイ幅を2インチ(5.08cm)、2.25インチ(5.72cm)2.5インチ(6.35cm)、2.75インチ(6.99cm)、3インチ(7.62cm)、3.25インチ(8.26cm)、3.5インチ(8.89cm)の7種類から選択する。ちなみに同サイトによると標準的な体型の場合、理想的なネクタイの太さは2.75インチになるそうだ。

 どのようなサイズが相応しいか悩んでいる時には、「Sizing help」という項目でいくつかの質問に答えることで、簡単なチェックを行うこともできる。

 たとえば「ブレザーと組み合わせて身につけるわけではない」「仕事で身につける」「厳密にビジネスのみ」「体型は平均」という組み合わせで答えてみると、2.75インチがオススメのサイズと表示された。またSkypeを通して予約することで、幅詰めを行う職人からアドバイスを貰うこともできるという。

 幅詰めの価格は、ネクタイ1つであればどの太さであっても29ドル(約3500円)でOK。個数に応じて割引がきくようになっている。なお利用者は注文後はサイトから送られてきた出荷ラベルを貼ってでネクタイを送付し、幅詰めをしてまた送り返せば、あとは待つだけで良い。

 このサービスは海外からも注文可能だ。手軽さもあって、日本や南アフリカを含む世界各国12カ国からオーダーを受け、これまでに4000ものネクタイのリサイズを行っているという。

サービスの価値はより感傷的なところにあった


 Skinny Fatties自身はこのサービスによりかつての自分のように経済的に苦しんでいる若者を救いたい、という想いがあったようで、低所得の男性が仕事を得られるよう支援する団体に寄付する試みを行っている他、このサービスの利用層も、経済的に苦しい若年層になると想定していた。

 ところが実際にメインの利用層となったのは30~60代の男性だった。彼らは家のタンスに眠っていた数百ドルする高級ブランドの、ただし現代からするとデザインが古くなっているネクタイの幅詰めを依頼しているという。この予想外の反響の理由を、ブルクナー氏はこのように説明している。

 「私はネクタイの幅詰めは、最初の注文を受けるまで金持ちや有名人には受けないと思ってました。しかし実際にサービスを初めてみて、自分のやっているサービスの価値は金銭的なものではなく、より感傷的なところにあるということに気づいたのです」(ブルクナー氏)

 確かに、若者が昔流行した太いネクタイを持っていて、新しいネクタイは買えないからそれを細くして欲しい、という状況は稀だろう。経済的な手段としての利用例としては、自分の体型とネクタイが合わないと思った人が、その微調整のために使うことがあるぐらいだという。

 その一方で、時を経た今でも昔自分が着けていたネクタイを捨てられないという人たちは、それだけそのネクタイに対して強い思い出を残している。そのネクタイを今風に蘇らせて着用してみることで、昔の自分に戻ったような感覚を得られるのだろう。想定していたものとはまったく違う形で成功した同サイトだが、顧客層の事情を知るとなるほどと思わされる話だ。

 3500円程度の料金でこれまで4000本を受け付けた、ということだからビジネスの規模としてはさほど大きなものではない。しかし、仕入れる必要もなく、在庫を置く倉庫も必要ない。それでいて良質な顧客とつながれる。こう考えると、eコマースのはじめ方としてはかなり優れているのでないだろうか。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
おお!自分も幅詰めして欲しいネクタイがたくさんある。

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