<特集>中部のモノづくりはなぜ強いのか#03
技術だけでなく意識や風土も継承
圧倒的強さの輸送機械に次ぐ新産業を
今後が期待される輸送用機械のシェアが大きいことは中部のモノづくりにとって強みである。だが、特定分野に比重が偏っていることは弱みにもなりうる。これに次ぐ柱となる産業を育成することも不可欠だ。
中部はモノづくりに関する研究開発機関やベンチャー企業が少ない。これと関連して、産学連携の実施が少ないことも課題だ。大学などにおける共同研究実施件数や特許出願件数の全国シェアは1割程度にとどまっており、関東、関西に大きく水をあけられている。先に挙げたモノづくりの強さを示すデータと比べて見劣りすることは否めない。
そうした中、ちょうど1年前の14年10月、中部のモノづくり界に明るい話題が飛び込んできた。赤﨑勇名城大学終身教授、天野浩名古屋大学大学院教授ら3人にノーベル物理学賞が授賞されたニュースである。両教授は、中部を拠点に青色LEDの研究を続け、今回の受賞に至った。自然科学分野でノーベル賞を受賞した日本人(日本国籍)はこれまでに17人。うち6人が中部の名古屋大学を卒業あるいは在籍した研究者だ。
また、青色LEDはモノづくりに新たな可能性を開く発明としても注目されている。LED関連の技術はさまざまな分野に応用され、すでに製品化されているものも多い。中部では豊田合成が製品化の分野をリードしている。近年は韓国、台湾、中国が世界シェアを急速に伸ばしており、日本企業の遅れが目立つ。
LEDは照明だけでなく、医療や農業の分野でも活用が広がっている。「青色LED発祥の地」から、LEDに関する新たな産業が生まれることが期待される。
中部のモノづくりがさらなる発展を遂げるには、個々の産業分野を強化することはもちろんだが、地域内の連携を深めることも不可欠だ。各地の得意分野、成長分野の産業が、他地域の産業と手を携え、新たな付加価値の創造を目指すことが求められる。
交通網の整備で異分野の産業交流に期待
15年3月、北陸新幹線の金沢・富山と長野を結ぶ区間が開業した。これにより、北陸から東京へのアクセスが大幅に向上した。一方、名古屋と東京を結ぶ中央リニア新幹線が14末に着工し、27年の開業に向けて工事が進められている。これにより、東海地区から東京へのアクセスがわずか40分に短縮される。
中部・東京間の利便性が高まる反面、中部内の東海・北陸間をはじめ各地を結ぶルートの整備は決して進んでいるとは言えない。地域全体を見ても、東西のルートに比べ南北のルートは遅れが目立つ。スーパー中枢港湾の伊勢湾、中部の空の物流拠点である中部国際空港、北陸新幹線が通る富山や金沢、そしてリニア中央新幹線の駅設置が予定されている名古屋・中津川。これらの拠点同士、さらにモノづくりの各拠点に繋がるルートのさらなる整備が今後の課題である。
12年、中部・北陸地域へのインバウンド推進を目的とした「昇龍道プロジェクト」推進協議会が発足した。能登半島を龍の頭に見立て、中部の縦断ルートをPRすることで、中華圏からの観光客増加を目指している。
このプロジェクトは、中部の豊富な観光資源の連携を目的とするものだが、その中にはモノづくり関連の観光資源を紹介する取り組みも含まれている。海外へのPRにとどまらず、これを契機に中部のモノづくり拠点が一層結びつきを深め、さらなる発展に繋がっていくことが望まれる。
(おわり)
日刊工業新聞2015年10月15日「モノづくり中部の鼓動 技、一路」より