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再エネ電力取引、リコーがブロックチェーンを活用する理由

リコーは取引記録をネットワーク上に分散保存するブロックチェーンを使った電力取引を始めた。太陽光発電所で作った再生可能エネルギー由来電気を同社の静岡県と神奈川県の2拠点で仮想的に消費する。社内実証で検証し、小売電気事業者が再生エネ電気を低コストに大量調達できる基盤構築を提案する。ブロックチェーンによる電力取引が広がっているが、電気を使う需要家であるリコーの参入で再生エネ電気の調達環境の改善が一段と進みそうだ。

リコーはブロックチェーンの機能を生かし、電気を発電から消費まで常時追跡できる管理システムを開発した。発電所の発電量を建物での電力使用実績に割り当て、再生エネ電気を消費したとカウントする。

実証では太陽光発電所からRICOH Future House(フューチャーハウス、神奈川県海老名市)、環境事業開発センター(静岡県御殿場市)の2拠点へ送電する。貸しオフィスなどのフューチャーハウスは時間帯によっては再生エネ100%で営業できる。リサイクル事業などの環境事業開発センターも昼間、使用量の5―6割を再生エネで賄える。

リコーは小売電気事業者や機器メーカーに参加を呼びかけ、プラットフォームへと発展させる。小売事業者にとってはブロックチェーン上の記録が検証可能であるため、再生エネを使った証拠となる証書の発行コストの削減が期待できる。また、ネットワーク化によって参加者の電力不足や発電量の余剰を把握でき、瞬時に融通して過不足を解消できる。

日本では企業が再生エネ電気を直接入手する手段が限られている。打開策として小売電気事業者は証書付き電気を販売しているが、証書の分が割高になっている。また、小規模な小売事業者ほど再生エネ電気の過不足は経営リスクとなる。リコーは小売事業者が参加しやすいプラットフォームにすることで、需要家も再生エネ電気を調達しやすくなると見込む。

電力取引でブロックチェーンの活用が広がっている。日立製作所やソニー、九州電力などが出資するデジタルグリッド(東京都千代田区)は、ブロックチェーンを使った取引市場を商用化した。みんな電力(同世田谷区)もブロックチェーンで発電所を特定した再生エネ電気を販売する。また、環境省は二酸化炭素(CO2)削減量をブロックチェーンで取引する市場を2022年度に創設する計画だ。

日刊工業新聞2020年8月21日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
ブロックチェーン技術に詳しくはありませんが、電力・環境分野での活用に大きなポテンシャルを秘めている印象を深めています。「電力の民主化」というフレーズも聞かれるくらいです。原理原則から「これは再生エネ」「これは基準に合わない」という声もあります。ルールを守る必要がある企業は一部。個人的には、世の中の再エネ普及に貢献するのなら、自主的な再エネもアリと思っています。その自主基準の再生エネを「ルール上でも再エネ」にする提案力が求めらると思います。

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