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温泉の脱衣室のツルツルな床の作り方、気になりませんか?

盛夏。夏らしい伝統工芸をと、東京、千石の木内籐材工業株式会社を訪ねる。二階の工房で、二代目・木内友秀さんと三代目・秀樹さん親子がお仕事をしていらした。

敷物の製作中の秀樹さんにお話をうかがう。敷物は籐(とう)むしろといい、温泉の脱衣室などに敷かれている―あれも籐だったのか。籐というと椅子や籠を思い浮かべるばかりだったが、籐を踏んでいたとは贅沢(ぜいたく)な話である。

籐は漢字こそ竹かんむりだが、竹よりしなり加工に適す。じっさい竹の仲間ではなくヤシ科。鋭い棘(とげ)に覆われた、長い長い丈夫な蔓(つる)で、自生する南国の熱帯雨林ではオランウータンがぶら下がっているらしい。

籐製品は、この棘のついた硬い外皮を剥き、出てきた芯の皮の部分を使って編む。この「皮籐」と呼ばれる皮をとったあとに残る芯は、製品を巻くのに使われる。良質な材料を求めて、秀樹さんは自らインドネシアのボルネオに買い付けに行かれるということだ。

さてその作業だが、皮籐にあらかじめ機械であけられた穴に、糸を通していく。簾(すだれ)は糸で材料の外を巻いて編んでいくが、籐は内側を通してつないでいく。

一本一本、糸をひたすら通す地道な仕事で、人の手でしかできない。一時間で出来あがるのは一メートル。「一日中、同じことをやります」と、淡々と語られたのが印象的だった。

籐の中には無数の細い導管が通っているため、よく吸湿し、また放湿する。だからお風呂場には最適なのだが、工程を見ればなおさら、この敷物を踏むのは贅沢なことだと思う。

籐が日本に伝わったのは平安時代。武具を巻くのに使われていたが、明治のころより家具も作られるようになった。南国調の涼やかな家具は、今も人気である。

それにしても、工房に置かれた、できたての籐製品の白いこと。その来歴ともいうべき南国での暑い加工作業や工房での地道な仕事を少しも想像させないさわやかさである。

籐は、湿度によって伸び縮みする。ゴルフ場に敷物を納品に行ったら「湿度の高い日で、入らなかったことがあるんですよ」と、からりと笑った。籐のようにさわやかで、しなやかな職人さんだ。

木内籐材工業株式会社=創業昭和6年(1931年)/東京都文京区千石4の40の24/03・3941・4484
(文・画=黒澤淳一)
日刊工業新聞2020年8月7日

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