METI
トヨタ「レクサス」が匠の挑戦を後押しする理由
企業コラボ広がる
企業が若き匠の才能に着目し、新たなものづくりの可能性を追求する動きが広がる。
2019年1月。東京・日比谷に全国から約50人の匠が一堂に会した。トヨタ自動車が展開する高級車ブランド「LEXUS(レクサス)」がブランド戦略の一環として実施する「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」のイベントである。2018年度に製作された作品が披露された。
全国で活躍する職人や伝統工芸士にスポットを当て、新たな作品づくりを通じて活躍を後押しする取り組みとして2016年に始まったこのプロジェクト。産地の風土や長い歴史の中で育まれてきた伝統工芸の世界に、常識にとらわれない新しい発想を取り入れることで、これからのものづくりのあり方を模索してきた。
それにしても、現代の工業製品の代表格である自動車メーカーがなぜ、伝統的工芸との接点を求めるのか-。
レクサスブランドマネジメント部Jマーケティング室の沖野和雄室長は、このプロジェクトは地域に対する「恩返し」の気持ちから始まったと語る。
「LEXUSが日本発のライフスタイルブランドとして地歩を確立できた背景には、ご愛顧頂いているお客さまや全国の販売店に支えて頂いたとの感謝の思いがあります。だからこそ、地域で活躍する匠にスポットを当て、才能を育み挑戦を応援したいと考えました。こうした発想は、日本人の美意識や精神性を大切にするLEXUSのブランド戦略とも重なるのです」
器や家具、ファッションアイテムなど、これまで生み出されてきた作品は150点あまり。伝統工芸と大企業とのコラボはどのような化学反応をもたらしてきたのか。
「プロジェクトを通じて生まれた作品に共通するのは、伝統工芸の魅力を新しい切り口で提案している点にあります。四国・阿波伝統の藍染めを施したサーブボードは作品のユニークさはもとより、サーファーでもあるデザイナー(永原レキさん)の才能にも注目が集まりました。そのほかにもさまざまな形で匠たちが新たな取り組みにチャレンジしています」
「技術的には思い切った挑戦だっただろう」(沖野氏)と推察するのは吉野杉で製作した二人がけの椅子。腰掛けた二人が座り心地のよい場所を探すと、顔を合わせて向き合うような形状になっている。これを実現したのは曲げ木を大型成型する技術だ。「メンター」と称する一流のクリエーターやデザイナーはこうした作品づくりをサポート。ハードルの高いテーマが提案され、作り手はこれに触発、奮起することもブレークスルーの原動力のようだ。
一方で作品は「作って終わり」ではなく、これを契機に新たな展望を切り拓かねばならない。ビジネスとしての可能性をどこに見いだしているのか。
「伝統的な技法や形状を前面に押し出すばかりでなく、作り手自身の中にある、匠としてのスピリッツや美意識を『内包』した作品に興味を覚えます。伝統を継承するだけでは、使い手を選んでしまいますし、美術館に展示されるだけではもったいない。伝統をベースにしながらも、現代の暮らしにいかに寄り添うかの視点が重要だと感じます」
声高に主張しなくとも、にじみ出る作り手の思い-。それは意外にも自動車にも共通する。沖野氏はそう考えている。
「日本車が『日本』を前面に押し出して、世界の市場で受け入れられてきたかというと必ずしもそうではない。逆に日本文化が入り込む余地は一見ないんですよ。ところが、日本人ならではの、繊細さや心配りはおのずとにじみ出るものです。それが結果として日本車に対する支持につながったのではないでしょうか。伝統工芸と融合したものづくりの可能性はまさにそこにあると感じます」。
11月29から12月1日の3日間。プロジェクトの集大成というべきイベントが京都・平安神宮などを舞台に繰り広げられる。
3年間に制作された作品を広く一般に紹介するほか、京都のクリエーターと匠の「共演」も予定されている。総合演出は隈研吾氏。プロジェクトの総合監修を務める小山薫堂氏は、京都開催の意義をこう語る。
「これまでに発表された作品はまさに伝統と革新の融合であり、その成果を発表する場所としてふさわしいのは日本のみならず、世界中から注目を集める京都しか考えられません」。
2019年1月。東京・日比谷に全国から約50人の匠が一堂に会した。トヨタ自動車が展開する高級車ブランド「LEXUS(レクサス)」がブランド戦略の一環として実施する「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」のイベントである。2018年度に製作された作品が披露された。
全国で活躍する職人や伝統工芸士にスポットを当て、新たな作品づくりを通じて活躍を後押しする取り組みとして2016年に始まったこのプロジェクト。産地の風土や長い歴史の中で育まれてきた伝統工芸の世界に、常識にとらわれない新しい発想を取り入れることで、これからのものづくりのあり方を模索してきた。
2018年度の成果を披露するイベントには百貨店などのバイヤーも訪れ、作り手の想いの一端に触れていた
それにしても、現代の工業製品の代表格である自動車メーカーがなぜ、伝統的工芸との接点を求めるのか-。
地域への恩返しから始まった
レクサスブランドマネジメント部Jマーケティング室の沖野和雄室長は、このプロジェクトは地域に対する「恩返し」の気持ちから始まったと語る。
「LEXUSが日本発のライフスタイルブランドとして地歩を確立できた背景には、ご愛顧頂いているお客さまや全国の販売店に支えて頂いたとの感謝の思いがあります。だからこそ、地域で活躍する匠にスポットを当て、才能を育み挑戦を応援したいと考えました。こうした発想は、日本人の美意識や精神性を大切にするLEXUSのブランド戦略とも重なるのです」
器や家具、ファッションアイテムなど、これまで生み出されてきた作品は150点あまり。伝統工芸と大企業とのコラボはどのような化学反応をもたらしてきたのか。
「プロジェクトを通じて生まれた作品に共通するのは、伝統工芸の魅力を新しい切り口で提案している点にあります。四国・阿波伝統の藍染めを施したサーブボードは作品のユニークさはもとより、サーファーでもあるデザイナー(永原レキさん)の才能にも注目が集まりました。そのほかにもさまざまな形で匠たちが新たな取り組みにチャレンジしています」
「技術的には思い切った挑戦だっただろう」(沖野氏)と推察するのは吉野杉で製作した二人がけの椅子。腰掛けた二人が座り心地のよい場所を探すと、顔を合わせて向き合うような形状になっている。これを実現したのは曲げ木を大型成型する技術だ。「メンター」と称する一流のクリエーターやデザイナーはこうした作品づくりをサポート。ハードルの高いテーマが提案され、作り手はこれに触発、奮起することもブレークスルーの原動力のようだ。
奈良の木工作家、平井健太さんが製作した二人がけの椅子。座り心地がよくプロダクトとしての完成度も高いと評価された
ビジネスにどうつなげるか
一方で作品は「作って終わり」ではなく、これを契機に新たな展望を切り拓かねばならない。ビジネスとしての可能性をどこに見いだしているのか。
「伝統的な技法や形状を前面に押し出すばかりでなく、作り手自身の中にある、匠としてのスピリッツや美意識を『内包』した作品に興味を覚えます。伝統を継承するだけでは、使い手を選んでしまいますし、美術館に展示されるだけではもったいない。伝統をベースにしながらも、現代の暮らしにいかに寄り添うかの視点が重要だと感じます」
にじみ出る思い、自動車も同じ
声高に主張しなくとも、にじみ出る作り手の思い-。それは意外にも自動車にも共通する。沖野氏はそう考えている。
「日本車が『日本』を前面に押し出して、世界の市場で受け入れられてきたかというと必ずしもそうではない。逆に日本文化が入り込む余地は一見ないんですよ。ところが、日本人ならではの、繊細さや心配りはおのずとにじみ出るものです。それが結果として日本車に対する支持につながったのではないでしょうか。伝統工芸と融合したものづくりの可能性はまさにそこにあると感じます」。
11月29から12月1日の3日間。プロジェクトの集大成というべきイベントが京都・平安神宮などを舞台に繰り広げられる。
京都市役所で行われた記者会見。左から沖野室長、小山薫堂氏、門川大作京都市長(2019年7月22日)
3年間に制作された作品を広く一般に紹介するほか、京都のクリエーターと匠の「共演」も予定されている。総合演出は隈研吾氏。プロジェクトの総合監修を務める小山薫堂氏は、京都開催の意義をこう語る。
「これまでに発表された作品はまさに伝統と革新の融合であり、その成果を発表する場所としてふさわしいのは日本のみならず、世界中から注目を集める京都しか考えられません」。