混乱の大学授業オンライン化、支えた国立研究所の正体

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国立情報学研究所公式フェイスブックページより

各大学は今春、新型コロナウイルス感染症対応でオンライン授業の導入に動いた。それを陰で支えたのが、国立情報学研究所が開いたオンライン型シンポジウムだ。文部科学省幹部は「ここでの情報共有がなければ大混乱だった」と評価する。情報学研所長の喜連川優氏に同シンポジウムやオンライン授業ついて聞いた。

―「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」には、ピーク時に大学関係者ら約2000人が参加しました。失敗を含め各大学の状況を披露し合って考える場だそうですね。
 「対面の説明会は500人がやっとだったので、サイバーシンポジウムは盛況だったといえる。十数回実施し、録画で後日の視聴も可能だ。(一般的に)文科省の通達は大学執行部で止まりがちだが、(シンポジウムでは)興味深いことに文科省担当者と現場の教員との間で、質疑応答などで多数のやりとりが出た。組織や立場を超え、皆で危機を乗り越えるための情報共有の場になったと認識している」

―オンライン授業で使う教材の著作権問題がフォーカスされました。
 「新型コロナで大問題になるとすぐに思った。3月末に内閣府の知的財産の委員会と、自民党で訴え、文化庁の著作権課が動いた。5月初めに講義開始の大学が多い中、4月末という絶妙のタイミングで新制度がスタートし、著作権管理団体は2020年度に限って無料とした」

喜連川優氏

―学生に配布するWi―Fi(ワイファイ)ルーターが大学間で争奪戦になったと聞いています。
 「大規模大学が買い占めるなど好き勝手に振る舞うのは好ましくない。通信量を減らすため、動画でなく静止画を活用する“データダイエット”を呼びかけている。動画はコミュニケーションが重要な子どもや障がい者など弱者向けにするといったように、資産は皆でシェアするという発想が大事だ」

―混乱の中で次々と提案を繰り出せたのはなぜでしょうか。
 「IT分野は進歩が速く、我々のようなIT屋は常に先を見て次の手を考える習性がある。今は孤立学生のメンタルが気がかりだ」

【略歴】きつれがわ・まさる 83年(昭58)東大院工学系研究科博士課程修了、同年東大生産技術研究所講師、97年教授(現職)。13年情報学研所長(同)。大阪府出身、65歳。

【記者の目/独特の存在感、これからも】
情報学研は最先端研究だけなく、学術情報ネットワークを使ったサービス業務を重要な役割とするのが特徴。喜連川所長が大手通信キャリアのトップと親しく社会動向に機敏なのも、所員が他大学を支えるシンポジウム企画に熱心なのもそのためだ。大学共同利用機関法人傘下の研究所として、その独特の存在感を引き続き示してほしい。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞2020年7月23日

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

かつて「喜連川所長は普通と違うんだな」と関心を持ったのは、確かクロスアポイントメント制度の第1号として耳にした時だったと思う。東大教授(教育研究)と所長(組織マネジメント)を併任する形は珍しい。才気ほとばしる、さぞ厳しい人だろうと想像していたから、ひょうひょうとした人柄が意外だったものだ。今回は以前の取材でも出てきた、弱者に対する配慮が気になった。実は体調を崩したことを含め、障がい者をよく知る立場だと聞いて、「この個性は筋金入りか」とますます気になってしまった。

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